【コラム・田口哲郎】

前略

今年は鉄道150周年イヤーだそうです。1872年に新橋-横浜間に開業した路線が日本初の鉄道になりました。150年前は明治時代ですから遠い昔のように感じます。確かにそうなのですが、今わたしは43歳です。たとえば鉄道の150年のうちの43年間は自分にとってもリアルタイムだったことになります。

単純計算で、わたしが生まれたときは、鉄道は開業して117年だったわけです。歴史の一部が自分の半生にかかっているというのは、なんとも不思議な感覚です。いつも現在だった今が、いつの間にかある程度時間的な距離のある過去になってしまうほど、自分がこの世に存在してきたのだなと驚きます。

ふと気づいたら、高校球児がずいぶん年下になってしまうと言われますが、それが感覚的によくわかるようになりました。

40歳を超えたあたりから、振り返ることができる年月が10年単位になることにも気づきました。若かったとき、いわゆる中高生だった時代は30年前、最初の大学生時代は20年前になります。わたしにとって懐かしい時代は90年代、ミレニアム、そして2000年代です。あのころを思って、ノスタルジーにひたることになるとは思いもしませんでした。

バブル経済がはじけて、失われた10年といわれた時代。阪神淡路大震災に衝撃を受け、9.11同時多発テロに震撼した時代です。携帯電話の登場でコミュニケーションが劇的に変わり、インターネットの登場で情報が洪水のようにあふれるようになった時代です。当時新鮮だったことも、現在は当然のこととして常識になっていたりします。

ノスタルジーは人間の本能!?

人間は歳をとると、現在と過去を自由に行き来できるようになります。まさに今のことが何十年後には過去になってノスタルジーを引き起こすに違いありません。

不思議なのですが、「あのころはよかったな」と、若いときは絶対に言えなかったフレーズが自然と口をついて出てきてしまいます。思い出は美化されますから、過去が現在よりも絶対に良いということはないのです。でも、もう変えられない過去は、どこかふるさとのようなやさしい感覚をよみがえらせてくれるのでしょう。

人間が伝統を大切にするのは、こういう時間の流れへのささやかな抵抗を本能的にしてしまうからかもしれませんね。ごきげんよう。

草々(散歩好きの文明批評家)