【コラム・古家晴美】和子さんから、開口一番、「9月は忙しくて畑になかなか来られなかったんですよ」という言葉が出る。

つくば市に住む娘さんが始めた家庭菜園を、妊娠時に手伝うようになった川島夫妻。車で片道30分かけて来る。そのこと自体は、とても励みになり、楽しい。しかし、用事が立て込んでいるときや悪天候が続いたときなど、来られないときもある。来れば草むしりに追われ、なかなか作付けに取り掛かれなかったという。

しかし、お彼岸には、秋冬野菜をまき終わり、畑には、青々と小松菜が茂っている。すでに1回間引いて食べている。この日の朝食のみそ汁にも入っていたらしい。また、長ネギ、キャベツやスティックセニョール(ブロッコリー)がすくすくと育っている。今年は娘さんからのリクエストで、イタリアンキャベツ(ちりめんキャベツ)にも挑戦した。ほかに伝統野菜の、のらぼう菜(アブラナ科の野菜)も仲間に加わった。

フルタイムで働いている娘さんは、家事以外に、息子の容太郎君の送迎などに忙しい。それでも仕事帰りや週末に、畑での収穫作業を分担し、それをご両親にも届けている。週1、2回、平日の昼間の野良仕事は、川島夫妻の担当だ。容太郎君が小学校から帰ってくる時間に、仕事を切り上げられるよう、その前の1、2時間を畑で過ごす。

共に食べることで活力を得る

最近のお孫さんの成長について、和子さんは半ばうれしそうに、半ば寂しそうに語る。「以前は、畑仕事以外に、虫を探したり、畑で過ごす時間がもっと長かったんですよ。無論、畑へ来れば、すぐにイチゴを摘んで食べることを楽しみにしていたり、芋掘りなどのイベントがあると聞きつけると、やって来ます。ただ、大きくなるにつれて、畑以外にも関心の幅が広がり、長時間、畑にいることが少なくなってきましたね」

子どもが様々なことに関心を持つことは、喜ばしいことだ。しかし、言葉にはされてはいなかったが、お孫さんと共に過ごす時間が短くなったことの寂しさは、本音かもしれない、と感じられた。

このように、菜園での共同作業は、子供の成長、家族のあり方とともに、変化している。しかし、たとえ、畑で共に過ごす時間が、それによって短くなったとしても、同じ畑で採れた収穫物を食べることによって、家族はつながっているのではないだろうか。日本の民俗は、「共食」と言うものをとても大切にしてきた。共に食べることにより、活力を得ることができる、という考え方だ。

また、子どもの頃に、家族と共に過ごした菜園での時間は、お孫さんにとって将来の大きな宝物となるかもしれない。(筑波学院大学教授)