【コラム・原田博夫】今回は、森林環境譲与税を取り上げてみたい。そもそもどれだけの人が、2019年度から森林環境譲与税が施行されていることをご存じだろうか。

譲与税は、国(政府)から地方公共団体(都道府県と市町村)に、使途を細かく指定せずに譲与される。一般国民としては、追加的な税負担は生じないので、大半の国民が知らないのも無理はない。とはいえ、この譲与税の財源はどこにあるのか。

実は、東日本大震災(2011年3月)の後、全国で実施する防災施策対応分として、14年6月から10年間(23年度まで)、個人住民税均等割を年額1,000円(都道府県と市町村で各500円)引き上げていた。それが終了した段階で(24年度から)、この増税分を森林環境税(国税だが、市町村が賦課徴収)に切り替え、それ以降はこれを森林環境譲与税の財源にする、という仕組みが19年3月に成立、施行された。

追加的な税負担ナシでの見事なすり替えだが、この制度の目的には「パリ協定の枠組みの下におけるわが国の温室効果ガス排出削減目標の達成や災害防止を図るため、森林整備等に必要な地方財源を安定的に確保する観点から」、という大義が付与されている。

この譲与税額は全国で2019年度(初年度)200億円だが、20・21年度は各400億円、22・23年度は各500億円、24年度以降は600億円(平年度ベースの森林環境税)が見込まれている。都道府県と市町村への譲与は、それぞれの私有林人工林面積(林野率で補正):5割、林業就業者:2割、人口:3割で案分される。

市町村と都道府県への配分は、2019年度は(当初は市町村の支援を行う都道府県の役割が大きいと想定されるので)8:2だが、経年的に市町村分を引き上げ、25年度からは9:1になる。

使途が決まらず基金へ繰り入れ

譲与実績(2021年度決算)を総額順位で列挙すると(都道府県分と市町村分の合計を都道府県単位で集計)、1位北海道、2位東京都、3位高知県、…33位茨城県、…、45位富山県、46位沖縄県、47位香川県、である。譲与税の配分基準に人口要素が組み込まれているため、大都市部への配分が大きくなる、という問題点が指摘されている。

もう一つの問題点は、使途が決まらず基金への繰り入れの大きいことである。茨城県の2019~21年度の譲与総額は2億3965万円で、21年度末の基金残高は1億527万円なので、44%が基金に繰り入れられている。同期間で、つくば市の譲与総額は5921万1000円で、基金残高は5450万9000円。土浦市の譲与総額は3270万9000円で、基金残高は2358万9000円である。

県以上に、基金への繰り入れが大きい。つまり使途が定まっていない、ということである。これは、全国的な傾向でもある。

つまり、これらの課題は、財政ニーズがまだ顕在化していない段階で、この制度の設計・運用が開始されたことにある。同時に、時代を先取りし、国民を誘導する制度設計の難しさ・悩ましさも示している。(専修大学名誉教授)