【コラム・原田博夫】今夏の暑さは、コロナ第7波も加わって、ひどかった。築140年・木造のわが家のクーラー対策も、20年前に比べて確実に増強している(設置エアコン数が増えている)が、寝苦しい夜が続いている。この酷暑・大雨は日本に止まらず、欧米でも40度Cにおよぶ熱波が各地を襲い、森林火災も多発しているようである。

ロンドンでも40度Cを超えているとの報に接し、かつてロンドンに居住していたころを思い出し、その深刻さに思いをはせている。

最初のロンドン滞在は1994年で、単身生活だった。生活の便を考えて、都心近くのNorthern & District線のEarls Court駅から5分のアパート1室に居を定めた。その当時の生活で印象的なのは、車にはクーラー未装備が標準だったことである。もちろん高級車は別だが、私の利用していた当時すでに20年以上の中古車「バンデンプラス・プリンセス」では当然、クーラーは未装着だった。

そもそも現地では、この地で車にクーラーをつけるのは過剰だ、という感覚だった。本当に避暑を求めるのであれば(その余裕のある階層は)、夏季休暇でロンドンを離れるのが当然、という意識だった。

2度目のロンドン滞在は2000年で、この時は家内と一緒だったので、同じくNorthern & District線でもやや郊外のEaling Common駅から5分の、樹木で囲まれたコンプレックス1室に居を構えた。ここで印象的なのは、天井近くにためる温水タンクの容量制約のため、使用量次第では、バスタブを満杯にできないことだった(温水使用量には制約があった)。

この装置の改善を、中間オーナーのスリランカ人にリクエストすると、バスタブは家族全員が使用時に1回満杯にすれば十分で、1人ずつ温水を使い切るような設備投資は無駄とのことで、却下された。

ロンドン市民の夏の暑さ対策

そうしたロンドン生活で、大方の庶民にとっての夏の息抜き・気分転換は、週末、郊外に出向くことだった。

Richmond Parkでの夕刻・野外コンサートでは、自治体国際化協会CLAIRロンドン事務所に赴任していた小川淳也氏(その後衆議議員になり、映画「なぜ君は総理大臣になれないか」のモデルを経て、昨秋の立憲民主党党首選のあと、政調会長に就任)の家族とご一緒し、彼我の市民生活の来し方を話題にした記憶がある。

緩やかなスロープ状の芝生で、それぞれの家族が三々五々集っている様子は、ストレス一杯の金融都市ロンドンでの緊張を癒し、明日への活力と英気を養っていたように思われた。つまり、夏の暑さ対策のために、物理的にクーラーを設置するのではなく、コンサートや花火大会のような社会的な工夫でやり繰りしていた気配がある。

もっとも、今夏のような酷暑は、人々のこうした社会的知恵で対応可能な範囲を超えている気味もある。長期的・多角的な視点に立った政策的対応を、積み上げる必要があるだろう。(専修大学名誉教授)