【コラム・室生勝】前回のコラムを読んだ知人は早速、ネットで調べたようだ。「ホームページの情報は2年前と古い(これでは情報提供と言えない)が、かかりつけ医は内科医なのに往診も訪問診療もしないらしい。かかりつけ医を替えたほうがよいのか」と電話で相談を受けた。返答に困った。今の医者には20数年、高血圧と軽い糖尿病で月1回は通院し、家族もお世話になっているという。2年前の情報だから信じていいかどうか、かかりつけ医に直接尋ねることを勧めた。

逆から言えば、診療所の医師は長年通院している患者さんをかかりつけの患者さんとみているのが常識だ。多くの患者さんは、通院できなくなったら、月1回往診あるいは訪問診療してもらい、自分の最期も看取ってくれると思っている。かかりつけ医に長年診てもらうということは「契約関係」ではないが、医師への「信頼関係」よりも「信任関係」、すなわち信頼して任せていることである。

私は64歳のとき多忙とストレスから狭心症と高血圧を発病したが、70歳までは開業医を辞めるつもりはなかった。70歳近くなって、在宅診療していた患者さんには私の持病を説明し、病状が悪くなったら引退すると話していた。しかし、通院している患者さんには言いそびれて話していなかった。

私の診療を受けていた患者さんに、医師の方から一方的に「信任関係」を崩したことになった。患者さんとその家族に十分な説明を行い、患者さんを引き受けてくれる医師に詳しい診療情報を提供した。患者さんには、私が辞めたあとも電話あるいは直接相談に応じることを約束した。

私の診療状況をよく知っている知人が言った。「先生が在宅診療していた患者さんたちは、先生に死に水を取ってもらいたかったんですよ」。その言葉は心に突き刺さった。今も忘れない。

60歳を過ぎた開業医が、往診はするが訪問診療をしたくないという気持ちを、私はよく理解できる。往診は急病や持病が急に悪くなったときに医師に依頼する場合の診療だが、訪問診療は週に1回ないし2週に1回、定期的に患者さんの住まいを訪問すると約束する在宅医療である。これによって24時間、365日拘束されることになるからだ。

10数人の患者さんの訪問診療を引き受けると、数日から10日の休暇は取りにくくなる。医師1人の診療所では、患者さんが満足する在宅医療を続けることは難しい。だが、診療所医師は近くの診療所医師と連携することで可能だ。多くの診療所医師が在宅医療をすればするほど、受け持つ患者数は少なくなる。多くの診療所医師がかかりつけ患者さんの在宅医療を引き受けてくれることを願っている。(高齢者サロン主宰)