【コラム・浅井和幸】若いころに車で人を迎えに行くことがありました。今、〇〇ビルの右側にいるとのことです。ビルの右と言っても、ビルに向かって右なのか、ビルを背にして右なのかが分からないと、車をどこに停めて行けばよいのか分かりません。

しつこくビルに向かってなのか、背を向けてなのかを聞いたら、右側だと言ったら右側だと怒られてしまい、そのまま電話でケンカになった覚えがあります。私も若く、今よりももっと短気でした。恥ずかしい思い出です。

今でも相談を受けるとき、大切なポイントだと思うところは同じ質問を繰り返すことがあります。例えば、「不眠症なので、眠れるようになりたいんです」と眠れない悩みの相談を受けたときは、どのように眠れないのか、それは精神科病院などでの診断名なのかをお聞きします。

寝付けないのか、途中覚醒するのか、朝方目が覚めてしまうのか、どのように寝にくいのか、昼間に強い眠気が出るとか、それが生活にどのような支障が出ているのか―などをお聞きします。

こういった質問をするのは、前提条件として、今の立ち位置が分からないと、「眠れるようになる」という目標に向かうための方法が見つけにくいからです。

場合によっては、人は8時間以上の睡眠を取らなければいけないという思い込みから、8時間眠り続けられない日があるから、不眠症なのだと思い込んでいる人もいます。こういった人は、今のままでも問題はありません。

また、不登校で困っているという相談では、どれぐらいの不登校なのかを聞きます。布団からも出られず、ほとんど家族とも話をしないのか、保健室登校なのか―などです。

酒飲み話なのか、改善したい悩みなのか

前提条件、現在の立ち位置といってもよいと思いますが、それを正確に把握した方が、具体的な対処がしやすくなります。不登校とか不眠症とかのざっくりとした表現では、どこにいるかが分からないのです。

朝早く起きたいというのは何時に起きたいのか、力が強くなりたいというのはどれぐらいの重さを持ち上げたくて、今はどれぐらいの重さを持ち上げられるのか、自由に生きられないというのはどのような状態なのか、普通に生きたいとはどのような生き方なのか―などなど。

お茶会や飲み会での雑談であれば、むしろ、前提条件がずれていた方が盛り上がるかもしれません。恋とは何だ、愛とは何だ、ひいきの野球チームが負けた原因は何か―など、前提条件がブレブレの方が、「あーでもない、こーでもない」と楽しい話ができるでしょう。

さて、あなたが今取り上げたい悩みは、酒飲み話なのか、真剣に取り組み改善したい悩みなのか、もう一度自分に問いかけてみてください。(精神保健福祉士)