【コラム・浅井和幸】「キーパーソン」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。病院への入院や介護施設に入所するときの手続きや連絡先などの協力をする人を指すことがあります。家族などが担うことが多いですが、身寄りがない方の場合は弁護士や施設の職員などが担うこともあるようです。

それ以外に、地域福祉でも支援時に課題解決のカギを握っている人という意味で使われることがあります。例えば、コミュニケーションの取れないひきこもりの方への支援としてのキーパーソンとして、接する機会が多い家族や友人、すでに支援をしているワーカーなどが挙げられるでしょう。

「悪いのは自分ではない、社会の方だ」という信念から、支援者とは会いたくない、何をされるのか分からずに怖いと感じている方は多いものです。支援を受けるなんて迷惑をおかけして申し訳ないと考えて、かたくなに支援を拒む方もいます。

良い悪いではなく人は支え合い、その多様性の中で生きていくものです。生活上で何か支障があれば、頼れるところを頼ることは大切なことです。

しかし、頼ることに慣れていない人が、そうそう簡単に支援者を利用することを選択できないことは当たり前のことです。心身にある程度の余裕がなければ、新しいことを始めることがさらなるストレスになり、避けたくなるのは不思議なことではありません。

そのようなときに、新しいことを取り入れることができる、周りの少しでも余裕のある方に関わってもらうことは、事態を変化させることにポジティブな影響を与えます。いろいろな関わり方のできる人が周りにいることは、複数の選択肢を得ることになります。

だれかの手を握りやすい状況になる

なので、支援者はキーパーソンを探すことが大切なことです。そうそう計画通りに進むことがない難しいケースであっても、たくさんの手が差し伸べられていたら、被支援者(利用者)が自分の意思で動こうとしたときに、だれかの手を握りやすい状況になるのですから。

被支援者の可能性を広げることが大切なことで、支援者が自分の信念でキーパーソンを決めつけて固定してしまうことはとても危険です。例えば、不登校は両親の仲が良ければ改善するという信念を持っている支援者は、「両親」をキーパーソンにして、さらに固定してしまいがちです。

実際にあったことですが、両親が仲良くなることが大切なので、不登校の子に直接会えるのに両親とばかり話しをして、いつまでたっても(といっても私からすれば短い期間でした)仲良くなるような兆候が見えないから、諦めてその家族との関わりを止めるという自称カウンセラーに接したことがあります。

課題の解決はいつも同じ道を同じようにたどるとは限りません。現状を変えたいと思い言動を変えていける些細(ささい)な積み重ねができる人が、できるところから変化させていくことが大切なのです。抱え込むことは避けなければいけませんが、大きな変化、安直なきっかけばかり追わずに、ほんの些細なかかわりの積み重ねを大切にしましょう。(精神保健福祉士)