【コラム・田口哲郎】

前略

先日、最近話題の洞峰公園(つくば市二の宮)を散歩しました。遊歩道が、洞峰沼、野球場、サッカー場、テニスコート、子ども広場、温水プール、体育館の周りを巡っています。広々とした良い公園です。先日このコラムでも、都市の中のこの公園にも「自然」があるのだと書きました(3月24日付)。さて、今回はつくば市での「散歩」について考えたいと思います。

2020年から1年近くNHK・BSで放映された「まいにち養老先生 ときどき まる」は『バカの壁』で有名な解剖学者養老孟司さんと18歳の愛猫のまるののんびりとした暮らしを紹介するドキュメンタリーです。

養老先生は鎌倉に住んでいます。まるは老猫なので、先生の家の庭から外に出ませんが、養老先生は毎日散歩します。谷が多い鎌倉は起伏が多く、高齢の先生が歩くのは大変そうですが、風情のある坂をゆっくり登ります。先生の行く先は建長寺や覚円寺などの古いお寺です。

年季の入った木造のお堂で宗教観を語ったり、苔(こけ)に覆われた古い墓場をめぐって死生観を語ったりします。時には、奥さまと二人、近所のおしゃれなモダン中華のレストランで優雅にディナーというような、地位も名誉もある先生らしいハイソな生活も出てきますが、大体は「散歩してる」の印象です。

寺院巡りの次に先生は、北鎌倉駅近くのカフェでタバコをくゆらせながらコーヒーを飲み、プリンを食べる。その映像を見ながら、鎌倉は散歩も絵になるなと思いました。

「使う」から「愛でる」街へ

散歩くらい私もします。その間に哲学的なことを考えたりもします。カフェだって、一昔前までは東京都心にしかなかったけど、もう茨城県南でもおなじみになったスター・バックスでカフェ・モカとスコーンを頼みます(タバコは吸いませんが)。やっていること自体は先生と変わりません。もちろん、養老先生の足元にも及ばないというか、比べるのも申し訳ない私なのですが。

もし養老先生がつくば市に住んでいて、洞峰公園を散歩して、近くのカフェでコーヒーを飲む光景を放映するとしたら、それはそれで素敵だと思うのです。でも、養老先生がそれを鎌倉ですると、1足す1が2になる以上のなにかが付け加えられるような気がします。

1000年近く歴史がある鎌倉と、都市化したのがまだ40年くらいの学園都市を比べてもね―と言われるのはごもっとも。でも、隣りの芝生は青く見えるではないですが、鎌倉に対するあこがれは、逆に街の文化をつくる原動力になるのではないでしょうか。

養老先生が巡っている鎌倉は寺社仏閣が立ち並んでいます。それは人々が「利用」もする場所ですが、心から「尊ぶ」場所でもあります。土地をどう使うかも大切ですが、その土地がどうしたら尊くなるのか。市民の想いを大切にする街になれば、学園都市はいずれ古都になるでしょう。鎌倉も源頼朝が幕府を開いたときは新しい街だったのですから。ごきげんよう。

草々(散歩好きの文明批評家)