【コラム・原田博夫】2月24日以降、ロシアのウクライナ侵攻の報道に接していると、戦争の背後に潜む正義は、時代や場所、あるいは人や組織で異なっていることが分かる。侵攻したロシアやプーチンには、少なくとも自国民向けの必然性や正当性があるはずである。

ロシアがこのような暴挙に至った経緯や背景は必ずしもつまびらかではないが、ここ数年来、米国やNATO(北大西洋条約機構)によるロシアへの圧力・圧迫があった(と、少なくともロシアおよびプーチンが思い込んだ)ことは確かである。その意味では彼らには、ゆがんでいたにせよ、なにがしかの必然性があったはずである。それなくしては、このように大規模な「特別軍事作戦」(一方的な侵略)を決行できない。

対して、この侵攻は、侵攻されたウクライナのみならず、EU(欧州連合)、NATO、米国や日本などの民主主義国にとって全く理解できない暴挙である。

この認識の対立構造は、それぞれの国民世論にも反映していて、ロシア国内の世論調査では(国内世論の操作が行われている上に、政府系の御用調査機関と揶揄(やゆ)されているが)、今回の特別軍事作戦は相当の支持を得ている。たとえば、全ロシア世論調査センターの3月17日調査やレバダセンターの4月21~27日調査では、いずれも「支持する」が74%に上っている。

他方で、国連総会でのロシアの軍事行動への圧倒的な非難決議(3月2日の非難決議への賛成141カ国、反対5カ国、棄権5カ国)に見られるように、国際政治・国際世論はロシアへの非難では歩調を合わせている。

関係者・当事者の「良識」に期待

当然ながら、ゼレンスキー政権に対するウクライナ国民の支持は高い。2019年4月の大統領選挙では73%の支持を得て当選したものの、次第に支持率を下げ、ロシア侵攻前は30~40%の支持率に低下していた。それが侵攻直後の2月26~27日調査では91%に跳ね上がっている。

また、米国、NATO各国や日本でも、それぞれの自国政府の対応には、一定の支持が集まっている。ただし、ドイツでは、5月8~15日に実施された州議会選挙では、シュルツ首相の所属する国政与党の中道左派・社会民主党が大敗しているが、この批判票は、ウクライナへの武器供与の判断の遅れなどに起因しているようなので、少なくともロシア批判に揺るぎはない。

こうした対立状況をどう克服させるか。伝統的・歴史的には、相手側を徹底的にたたくというよりも、ある段階・時点からは、緊密な外交交渉や経済関係・文化交流などの相互依存を深めることで融和させる手法が有効だと理解されてきた。しかし現下の厳しい情勢は、それもむなしい経験知・願望かもしれない。

では、どうするか。私は、関係者・当事者の「良識」に期待したい。漠然とした概念かもしれないが、それ以外には、少なくとも私には、現状を突破する出口が見えない。(専修大学名誉教授)