【コラム・奥井登美子】死に方を自分で選ぶのが難しい時代になってしまった。コロナの流行がそれを加速してしまっている。人生で最後のしめくくり、「ご臨終」が不可能になってしまったのだ。

Tさんはがんの末期で入院したご主人に会いに行ったけれど、コロナの感染を恐れて会わせてもらえなかった。そのままご主人は亡くなって、遺体をさわることすらコロナの危険でできなかったという。愛する夫の臨終に立ち会えなかったTさんはノイローゼみたいになってしまった。

奥井恒夫さんはご近所に住む親戚で、薬剤師。家族の次に大事な人である。認知症予防に碁と散歩。毎日散歩をして、脳と身体、両方を鍛えていた。彼は自宅で倒れ、救急車で入院。コロナで会わせてもらえないまま、亡くなってしまった。亭主にとって、会えないままになくなった恒夫さんの死はショックだった。

在宅死について書かれた本

「このごろ、息を吐くときが苦しい。おやじも最後のころ、そう言っていた。ぴんぴんころりバタンキュー。人間らしさの残っている間に家で死にたいよ。図書館に行って、在宅死の書いてある本借りてきてくれよ」

亭主に頼まれて、私は図書館に行って本を探してみた。

『我が家で最期を』(千場純、小学館)
『こうして死ねたら悔いはない』(石飛幸三、幻冬舎)
『それでも病院で死にますか』(尾崎容子、セブン&アイ出版)
『在宅死のすすめ方』(専門家22人、世界文化社)
『世界一しあわせな臨終 その迎え方の秘訣』(志賀貢、三交社)
『穏やかな死に医療はいらない』(萬田緑平、朝日新書)
『死に方は自分で選ぶ』(平尾良雄、講談社)

死を選ぶ。それぞれ深い意味のある本で、2人で夢中になって読んだ。(随筆家、薬剤師)