【コラム・オダギ秀】旅の途中で出会った人たち、みんな素敵な人たちでした。その方々に伺った話を、覚え書きのようにつづりたいと思っています。

「だって、足のお医者さんは、靴の専門家ではないんですから」。笑いながら、仕方ないんですよ、と語り始めた大沼義明さん。ドイツで学んだシューフィッター、つまり快適なシューズ選びの知識とフィッティング技術を持った、高度な専門技術者だ。土浦市で「ザックスオオヌマ」を経営している靴職人である。

足専門の整形外科医が大沼さんを訪ねて来た時の話だ。色々話をして、その医師の靴を見せてもらったのだそうだ。その時のことを、当人、きし整形外科内科の山口健一先生は語っている。

「職業がら月に200人以上の足を診療していて、自分の足を治療する前に、靴を見直す、靴の履き方を見直すことが最優先だと思っています。それなのに、自分自身は大沼さんにフィッティングしていただいたら、今まで30数年間、正しい靴を履いていなかったと思い、恥ずかしく感じました」

足の専門医でさえ、靴のフィッティングに関しては良い状態になっていない、ということが日本の実情なのだろう。靴が合っているかどうか、自分でも判らないのでしょうね、と大沼さんは言う。

「本来、人間の足って、ものすごくよく出来ているんです。ところが、現代は、きわめて多くの人の歩き方がおかしい。それは、足癖が悪いわけではなくて、足に合った靴を履いていないからなんです。合っている靴を履いて歩けば、即、いい歩き方に変わります。人間本来の、筋肉の使い方、関節の使い方、足の使い方ができるようになるんです。でも今は、軽くて柔らかくてゆったり感じる靴が売れる。誰もが、何となく合っていると感じてしまう靴が売れていて、メーカーはそんな靴ばかり作っている」

足に合った靴ではなくて、売れそうな靴ばかりが流行る。それが、日本の靴文化の現状なのだとボクも思う。大沼さんは続ける。

「合っているかどうか、履いている本人も判らない時代になってしまった。靴の選び方を知らない、判らない。すべての人が、一人一人違う足をしていますから、その足に合う靴は、全部違う。それなのに、合っている靴を履いていると思わせられているんです。こんな日本の現状を、この土地から変えたいと思っているんですよ」(写真家)

▼ザックスオオヌマ:土浦市中央1-10-1 電話029-822-0801