《続・平熱日記》7 冬の「スイミングクラブ」


【コラム・斉藤裕之】冬になると恋しくなるのがスイミングクラブ。とはいってもプールで泳ぎたいわけではありません。英語でスイミングクラブというのはワタリガニ。蟹(かに)と言えばだれもが認めるタラバ、ズワイ、毛ガニが御三家。しかし私はワタリガニファン。値段も手頃ということも、もちろん魅力のひとつですが、独特のお味が大好物。

ところが、スーパーに行ってもこの頃滅多にお目にかかれない。中国産やバーレーン産の小ぶりな出汁(だし)取りにしかならないようなものはよくあるのですが、身のずっしり入った大きいものはとんと見かけなくなりました。そのワタリガニ、先日久しぶりに東北産のでかいのを発見。迷うことなくカートへ。

さて、赤くゆでられた蟹。これをばらすのは私の仕事。まず甲羅をパカッと外す。美味しそうなみそや内子があればラッキー。それから縦にバキッと真二つ。そして順番に足を外していくのですが、メーンイベントは4番目の足。スイミングクラブの所以たる一番下の足は泳ぐために鰭(ひれ)の様になっているのですが、よく使うその太ももは身も大きく甘くて絶品。

大きな身の付いたその足をまずはかみさん、子供たちに。私はおこぼれをいただきながら献身的に身を取り分けます。しかし、むさぼるという言葉がぴったりの光景。家族が黙々と蟹をむさぼる姿はちょっと部族っぽい感じ。同じ釜の飯ならぬ同じ蟹の飯は、しばしの間悩みも忘れてひたすらむさぼる家族飯。

ばらばらにされた蟹の残骸の山を前にごちそうさま。第1ラウンド終了。うちではその後蟹のだしで鍋に移り、雑炊へとなだれ込むのがワタリガニフルコースです。

実はワタリガニは瀬戸内海ではポピュラーな生き物です。子供の頃、海水浴に行くと膝位の深さのところを横切る影。これを捕まえようとして、何度も潜ってゲットするのが手のひらよりも大きいワタリガニ。通称ガザミでした。しかし持ち帰って食べた記憶はありません。こんなに美味しいと知っていれば。悔やまれます。今もあの海にいるのかなあ。いて欲しいですね。

しかし今どきは、漁師さんの網よりもネットで捕獲する方が容易な時代。でもそれは無粋というもの。スーパーの棚でいつかまた会えるのを楽しみにしております。冬のスイミングクラブ。(画家)