【コラム・瀧田薫】2月24日、ロシア軍は首都キエフをはじめとするウクライナの主要都市周辺の軍事施設に空からの攻撃を開始した。今回のウクライナ攻撃が「力による一方的な現状変更を禁じた国際法」に違反することは明白であり、日本政府がロシアに対する非難声明を発表したのは当然のことである。今後、ロシア制裁について、政府はG7メンバー国と同一歩調を取ることになるだろう。

米欧側はロシア軍のウクライナ侵攻を抑止できず、今後、大規模な経済制裁を発動するにしても、手詰まり感は否めない。米軍あるいはNATO軍の軍事介入は、ロシアとの核戦争を覚悟しなければできないオプションであり、米欧にできるウクライナへの軍事支援としては、最大限、武器・弾薬と情報の提供ぐらいだろう。

一方、ウクライナ政府は「非常事態宣言」を発し、ロシア軍への反撃を国民に呼びかけている。しかし、彼我の戦力差は大きく、ロシア軍に対する組織的抵抗を長期間続けるには無理がある。ゼレンスキー・ウクライナ大統領は、親ロ派やロシアが送り込んだ工作員によるクーデターやテロの可能性にもおびえなければならない―それが実態と思われる。

他方、プーチン大統領は、ウクライナ侵攻を事前の計画どおりに進めており、現時点で戦争の主導権は完全に彼の手中にある。しかし、プーチン大統領にも不安材料はある。

彼の最終目的は「強国ロシアの復権」であり、そのための条件として、この戦争の後、ウクライナ、ベラルーシそしてロシアとの間で強力な同盟もしくは国家統合を形成する必要がある。この戦争でウクライナを徹底的に破壊してしまえば元も子もない。

そこで、可及的速やかにウクライナの現政権を無力化し、新政府(ロシアの傀儡政権)を誕生させることが、プーチン大統領の最優先課題となる。首都キエフの制圧に手間取って、ロシアとウクライナ双方に甚大な人的・物的損害が出るような事態になれば、プーチン大統領は、たとえ戦争に勝利したとしても、ロシア国民の支持を失うだろう。

旧い国家観のプーチン戦略

ところで、ウクライナ情勢がプーチン大統領の思惑どおりに展開したとして、最終目標の「強国ロシア」の復権は実現するだろうか。

国家を「強国たらしめる要素」は軍事力だけではない。経済力、外交力、文化的影響力など諸要素が相まって、また国内外からの評価もあって、初めて強国たり得るのである。その観点からすれば、プーチン大統領の今回の試みは、ソ連崩壊以来30年、衰退の一途をたどってきたロシアの国力を、軍事力だけで回復せんとするものであり、20世紀前半の旧い国家観にとらわれた戦略でしかない。

今後のロシアが、国際的に孤立するなかで、頼れるのは軍事力だけだとすれば、ロシアが「20世紀に取り残された国家」の枠を超えるのは、プーチン以後を待たねばならないだろう。(茨城キリスト教大学名誉教授)