【コラム・田口哲郎】
前略

先日、手代木公園から松代公園までの遊歩道を散歩していたら、公務員宿舎の建物を見つけました。つくば市内に点在する宿舎は順次売却されるそうです。つくば科学万博では明るい未来を描く舞台となったつくば市は、いま変化の過渡期といったところでしょうか。年季のはいった宿舎の建物は「公団住宅」を思い出させるので、私世代にはノスタルジーを感じさせます。

こうして人は街をつくりますが、時がたてば街は変わるのだな、諸行無常だなと思いました。いま、つくば市のみならず、日本、世界が変化の過渡期に直面しています。国の内外がここまで多方面で騒がしいのは、明治維新や先の大戦後のころに似ているのでしょうか。

英の名門パブリック校が「柏の葉」に

そういえば、つくばエクスプレス(TX)沿線の話ですから、つくば市に無関係ではないと思うのですが、2023年9月、柏市・柏の葉に、英国の名門私立校・ラグビー校の分校が開校するそうです。ラグビー校はハロウ校やイートン校と並ぶパブリック・スクールです。

ちなみに、慶應義塾は福澤諭吉がパブリック・スクールを参考にして創設したと言われています。義塾というのがパブリック・スクールに当たるそうです。西洋文明を和魂洋才のスローガンのもとに取り入れてきた日本に、いよいよ西洋の本丸が乗り込んでくるというのは衝撃です。

慶應義塾には付属高校にニューヨーク校というのがあって、ニューヨークに住んでいる家庭の子弟がそこで学んで、日本に進学するというパターンはありました。ほかの大学でも海外校を持っているところはありますよね。

でも、ラグビー校は日本に住む英国人のための学校という感じではなさそうです。すでにシンガポールに分校をオープンさせているそうですから、ラグビー校の海外戦略はシンガポール校を見ればわかるでしょう。

価値観が気軽にやってくる時代

何年か前、常陽銀行が足利銀行と経営統合する際に、共同持ち株会社の本社を東京に移すという話があり、地元水戸の大反対に遭い、中止したというニュースがありました。銀行もいろいろと大変で、地銀同士のナワバリ、つまり県境を守っていては時代についていけないという事情が背景にあるようです。こうした状況は、コロナ禍以降、県境どころか国境にまで広がっていますね。

ICT(情報通信技術)によるネットワークが整備され、「リモート」が進むと、それを主導して推進しようとしている欧米の価値観が日本にも流入すると以前書きましたが、こんなかたちで最初の波が現れてくるとは思いませんでした。精神に関わる教育というものが、本格的なイギリス式になる。それも日本にいながらにして。

これは黒船の来航というよりも、フランシスコ・ザビエルの来日に近いかもしれません。当時は宣教師が命がけでやってきましたが、これからは価値観が通信網に乗って簡単に、いつも気軽にやってくる時代です。ごきげんよう。

草々(散歩好きの文明批評家)