【コラム・奥井登美子】床屋さんの看板で青と赤がぐるぐる回っている。フランスのアンブロワーズ・パレは、床屋から医者になり、4代の王様の主治医になった歴史的人物。私も薬史学会の見学会に参加し、パレがいたオテルデュ病院(パリ)に行ったことがある。赤は動脈、青は静脈の象徴である。

日仏薬学会は、日仏医学会とも昵懇(じっこん)の間柄であった。1990年、仏医学会の希望があり、日仏医学会で「アンブロワーズ・パレ生誕400年祭」を記念して、日本外科学会から日本の古代型石灯篭を送ることになったらしい。

日本の王様、天皇陛下に歴史上初めて手術をなさった手術医は森岡恭彦先生。その先生がある日、奥井薬局に飛び込んで来られた。

「石灯籠の製作は真壁町だそうです。行ってみたいのでよろしくお願いします」

パレに捧げる記念品を、日本の王様の主治医が真剣に探している。五所駒瀧神社(ごしょこまがたきじんじゃ、桜川市真壁町)の櫻井崇さんが石工の加藤征一さんを紹介してくださった。

「そちらが医師会ならこちらもイシ(石)会です。同じイシ会としてぜひ協力させてください」

浄瑠璃寺(じょうるりじ、京都府木津川市)の古代燈籠と同じ形の、手づくりの見事な石灯籠が出来上がった。

パレ生誕400年祭に石灯籠

1991年1月19日 石にはその土地の魂が宿っているので、日本の伝統的な行事で送り出してほしいという仏大使館の要望で、五所駒瀧神社で禊(みそ)ぎを行うことになった。

出席者は、東大教授森岡恭彦氏、仏大使館グルギエール氏、仏薬剤師会テメム氏、慶応医学部教授大村敏郎氏、埼玉医大教授加賀美尚氏、東大医学部佐野武氏、千葉大一外科教授奥井勝二、日仏薬学会事務長奥井清、石工加藤征一氏、画家新居田郁夫氏。

千年の歴史がある神社。神官装束の櫻井氏の気品とパレの伝記を読み込んだ祝詞の上品な声。かやぶき屋根の社と、背景の古木の森にこだまして、荘厳な神事であった。たくさんの人が協力して、日本の古代式手づくり石灯籠を、パレ生誕地の公園に設置することができた。(随筆家、薬剤師)