【コラム・中尾隆友】地方の人口減少は少子化に起因する。だからこそ、建設機械大手コマツの少子化対策への取り組みに括目(かつもく)するべきだ。今ではグローバル企業として確固たる地位を築いたコマツは、国内雇用をきわめて重視している見本のような企業だ。事業の選択と集中によって競争力は維持できるとして、同社の坂根正弘・相談役が2001年に社長に就任して以降進めてきたのが、創業地である石川県への地元回帰を中心とした本社機能や工場の地方への分散だった。

その経緯を振り返ると、まずは02年に、部品調達本部を東京本社から石川県小松市に移している。ITが進歩していく世の中では、部品調達本部は協力企業が近くに集まる工場にこそあるべきだと判断したというのだ。続いて07年には金沢市と茨城県ひたちなか市に新しい港湾工場をつくり、11年には本社の教育研修組織と複数拠点に分散する研修施設を統合して、小松市に総合研修センターを開設している。これまでの地元回帰では、150人以上の社員が本社などから石川に転勤になったということだ。

私は11年にコマツが本社機能の地方分散を進めていることを初めて知ったとき、少子化を緩和していくためには、かつ、地方の衰退を止めていくためには、コマツの取り組みを多くの大企業が見習う必要があるだろうと直感することができた。それ以降、コマツの取り組みが他の大企業にも波及することを願い、講演会などで取り上げながら応援してきたつもりだ。

実際に、本社機能の地方への分散は、正確にはどの程度の効果をもたらすことができているのか、私自身もずっと気になっていたところだ。そのように思いを巡らし続けていた矢先、偶然にもある催しでコマツの坂根正弘・相談役にお会いする機会があったので、お話を伺いたいと率直に申し上げたところ、日本の将来を考えるうえで、非常に意義あるインタビューをさせていただくことができた。

坂根氏は「なぜ地方を重視するのか」という問いに対して、「その本質的な動機は、この国の深刻な少子化問題を解決したいという思いにある」と明かしている。コマツは1950年代に石川から東京に本社を移し、工場も輸出に有利な関東・関西に移しているが、多くの地方企業がそういう歴史をたどったことによって、東京への過度な一極集中とそれに伴う少子化を加速させてきたという事実を直視し改めなければならないというのだ。

現に、コマツの本社機能の地方への分散は、少子化対策としてはっきりとした数字を残している。同社の30歳以上の女性社員のデータを取ると、東京本社の結婚率が50%であるのに対して石川が80%、結婚した女性社員の子供の数が東京は0.9人であるのに対して石川は1.9人と、掛け合わせると子供の数に3.4倍もの開きが出ているのだ。石川は物価が東京よりもずっと安いし、子育てもしやすい環境にあるので、これは当然の結果といえるだろう。(経営アドバイザー)