【コラム・先﨑千尋】最近、この近くで目立つモノ。それは太陽光発電のパネルだ。昨日まで田んぼや畑だったこことあそこ。道沿いの山の木が切られていると思ったら、ほどなくパネルが並んでいる。人家に近い所も容赦なし。所かまわずだ。

極め付き(?)は、わが家の南西3キロにできたメガソーラー(1000キロワット以上の発電所)だ。64ヘクタールの山林などをつぶし、地ならしをした。発電量は2万5000キロワットとか。昨年11月に発電が始まっている。わが旧瓜連町の全世帯の電気をまかなって余りがある。

JA常陸の秋山豊組合長は「山林を伐採して造成する太陽光発電所は自然破壊ではないのか。CO2を酸素やオゾンに換える山林をメガソーラーに転換することが温暖化防止につながるのか」と怒っている。だが、農協の力ではこれを止めることはできない。

このメガソーラーに土地を貸した知人に話を聞いた。「集中豪雨の時の水が心配だが、山林を持っていても、木材価格は安く、切れば持ち出しになり、カネにならない。だから、この話が持ち上がったとき、1人を除いて誰も反対しなかったよ」。

水戸市北部で県の外郭団体が大規模なニュータウン建設を進めていた。バブルがはじけ、この構想は途中でストップし、外郭団体は倒産。約半分の土地は太陽光発電の業者に買い取られ、現在は県内で有数のメガソーラーになっている。

集合住宅の前は一面パネルが張り巡らされている。戸建ての住宅の前もパネルの波。自然豊かな、閑静な住宅地になると期待して家を建てた人たちは「こんなはずじゃあ、なかったのに」と唖然(あぜん)としている。

水戸市農業委員会の権限でもこの事業は止められなかった。2015年、茨城県は筑波山の中腹での太陽光発電建設計画を不許可にしたが、裁判で負けたことがあった。

「市町村レベルでは私権の制限ができない」

昨年7月の熱海市伊豆山での土砂流災害ほどではないが、太陽光発電の建設により、周辺の人家や農地などに被害が出ている。新聞には、常陸太田市や笠間市などの事例が載っている。被害の規模は小さくとも、当事者にとってみれば、たまったものではない。

茨城県は2016年に「太陽光発電施設の適正な設置・管理に関するガイドライン」を制定し、業者の指導に当たっている。また市町村段階でも、笠間市や常陸太田市などが条例を作っている。しかし、いずれも罰則規定がないため、問題が起きても事後指導にとどまっている。

那珂市と笠間市の市長、副市長に話を聞いたが、「事業の認定は資源エネルギー庁にあり、市町村レベルでは私権の制限ができないなど、現場での対応が難しい。国レベルで適正な方策を考えて欲しい」と頭を抱えている。

被害が生じても、「国策」という自然エネルギー推進政策と、私権には口出しできないという建前のもとで、大方は泣き寝入りだ。

大本は、戦後すぐに始まった木材の自由化による関税ゼロという森林行政と、TPP(環太平洋経済連携協定)に象徴される農産物の自由化攻勢による農業破壊にある。昔は、山林所有者は村の有力者だったが、今は逆だ。田畑を作っても生活できない。後継者もいない。それにつけ入るような業者の甘いささやき。断る理由はない。これこそ政治の貧困ではないか。(元瓜連町長)