【コラム・瀧田薫】昨年の師走、「1年を象徴する漢字」が発表されました。京都・清水寺の貫主が揮毫(きごう)したのは「金」(きん)の一字でした。オリンピックの「金メダル」、大谷翔平選手が打ち立てた「金字塔」などの印象が強かったようです。

この催しは昨年で27回目。そのうち「金」という字が選ばれたのは4回目だそうです。他に複数回選ばれた字としては「災」が2回あるだけだそうですから、「金」は大変な人気です。ちなみに、この字を「かね」と読んだ例は、2016年に1回(政治と金)あるだけでした。毎年選ばれても不思議はないと思うのですが、当たり前過ぎて印象に残らないのかも知れません。

さて、お金からの連想ですが、今年の世界経済、日本経済はどのような1年になるのでしょうか。例年、新聞や雑誌が新年特集号を組み、経済の先行きを予想するのですが、筆者は「存在意義・パーパス」や「使命・ミッション」といった言葉が2022年度経済のキーワードになると予想しています。

「パーパスとミッション」は、コロナ禍で疲弊した社会や組織を立て直そうとする勇気ある人々にふさわしい言葉ではないでしょうか。コロナ禍によって、社会は多くのことを見直しつつあり、人々の意識も大きく変化しつつあります。アフター・コロナにおいて、経済活動や社会活動がコロナ以前と同じ形で復元されることはあり得ません。もし復元できると考えたとしたら、時代と社会を読み誤ることとなります。

企業も社会も、この大変化を踏まえて、未来を見据え、自らのパーパスとミッションを再構築しなければなりません。

広がる「パーパス経営」の動き

昨年11月、日立製作所は、同社の歴史を展示する「日立オリジンパーク」(日立市)を報道陣に公開しました。創業者の小平浪平(なみへい)氏が最初のモーターを製作した場所を復元した「創業小屋」など、創業のシンボルをIT(情報技術)機器製造の拠点に移し、日立の事業転換を印象づける狙いのようです。

同所の開設式典で、東原敏昭(ひがしはら・としあき)会長は「コロナウィルス禍など不確実性が高まる時代だからこそ、日立は原点に返ることが重要だ。優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献するとの創業時代からのミッションは変わらない」(日本経済新聞、11月5日付)と述べました。

最近、「パーパス経営」への動きは、製造業だけではなく、金融機関(三菱UFJ、三井住友トラストHD、東京海上HDなど)にも広がりつつあります。ESG(環境、社会、企業統治)の動きや顧客や従業員の多様化などで社会が急速に変化する中、自社の存在意義を見つめなおす必要を感じてのことでしょう。

数年来、資本主義をめぐって、数多の著作・論文が発表されていますが、「ミッション・エコノミー」の邦訳題で出版されたマリアナ・マッカ―ト氏の著作が「パーパスとミッション」という言葉の火付け役となったようです。(茨城キリスト教大学名誉教授)