【コラム・坂本栄】1月末トランプ米大統領の一般教書演説があった。この分断と差別を煽る「ごじゃっぺ」が米国のトップになってから1年経ったわけだ。スタッフが書いたものだからトーンは抑え気味だったが、考え方の基本は変わらない。大統領なり首相がその国の知性のシンボルだとすれば、米国も地に墜ちたものだ。でも教材としては役に立つ。国際経済の授業で使わせてもらっている。

3年前、大学から国際経済を分かりやすく―学生の暮らしに関連付けて―半期15回講義してくれないかと頼まれたとき、さび付いた頭の整理にもなるかと快諾した。

そこで、授業計画の目標には「国際経済というと日常生活から遠いものと思われがちだが、貿易、為替、金融、エネルギー、投資などの具体例を学ぶことで、国際経済がいかに日々の生活に密接な関係にあるか理解することができる」と記載。

授業概略には「総論、各論とも、新聞などで報道される国際経済の直近の動きを取り上げ、具体的な事例から各回のテーマに拡げていく。体系的な国際経済の講義というより、国際経済に関する解説(背景説明、問題点指摘)の形で進め、進行中の問題と日常生活の関わりを理解できるよう工夫」と書き込んだ。

保護貿易回帰をリード

米の新貿易政策を取り上げたのは、5回「国際貿易の今と歴史」と14回「自由貿易システムと経済圏形成」の中。

1970年から30年間、取材を通じて学んだのは、貿易の自由化が日本にとって大きな利益になるということだった。企業が世界場裡で戦っていかねばならない以上、どの国(市場)でも活動の自由が確保されていることが望ましい。そこで負けるのであれば諦めてもらうしかない。

講義では戦前の「保護貿易」時代、戦後の「自由貿易」時代をザッとおさらいしたあと、現在を「地域貿易圏」の時代と位置づけた。自由貿易が後退、保護貿易の浸食が目立つ、妥協の貿易システムの時代といえる。その地域貿易圏の具体例として挙げたのが、NAFTA(北米自由貿易協定)とTPP(環太平洋経済連携協定)。

トランプは昨年、米加墨の地域貿易圏NAFTAをガラガラポンにしようと提案。太平洋周辺12カ国の地域貿易圏TPPからは脱けると宣言。米国の雇用を守るとの理屈で「地域貿易圏」という極めて脆弱なシステムまで壊してしまった。世界のリード役が保護貿易回帰の旗を振っているわけだから情況はかなり悪い。

米国はゲームのルールを変えようとしている。そしてそれは日本に大きなダメージを与える。トランプの言動は国際経済について学生に興味を持ってもらうには「よい教材」。困ったものだ。(大学兼任講師)