【コラム・冠木新市】つくばセンタービルができる3年前、日露戦争を描いた3時間の大作、東映『二百三高地』(1980)が公開された。当時は戦争を美化する作品との批判もあったが、今では反戦映画の名作との評価が定まっている。

『二百三高地』の丹波哲郎

幾つもの名場面がある作品だが、料亭の一室で伊藤博文(森繁久彌)と児玉源太郎(丹波哲郎)が、勝ち目のないロシアとの開戦を決めるシーンが印象深い。というのも、私はこの場面の撮影を間近で見ていたからだ。撮影終了後、緊張感から解放された丹波さんが、「飯だ、飯だ」とセットから勢いよく出て行った姿を記憶している。つくばセンタービル改造問題に関わって1年半。なぜか、時折このシーンを思い出す。

現在「つくばセンタービル謎解きツアー」を開催中だ。参加者は、11月3日10人、同13日8人、同23日23人、12月4日5人―だった。12日は8人の予約がある。子どもも何人か参加し、どこが面白いのか、また来たいと言っている。建築専門家でない私は、いろいろな資料を再確認しながら、ツアーの準備をしている。

センタービル関係の資料は少ない。主なものは、「建築のパフォーマンス」(1985)、「磯崎新のディテール」(1986)、「現代思想 磯崎新」(2020)などだ。目を通した中では、「磯崎新の『都庁』」(2008)がとても参考になった。

センタービル完成後の1985年、都庁コンペの過程を記録したもので、建築界の大御所・丹下健三に、弱小組織・磯崎新チームが挑戦する話だ。当時の磯崎とスタッフの様子が手に取るように分かる。磯崎はアイデアをスタッフに投げ、その理由を説明せず、読み解かせる。謎解きを要求するわけだ。センタービルのことも想像でき、面白かった。

賞賛、賞賛、賞賛、内密、秘密、隠密

ツアーでは、これまで見過してきた発見がいろいろあった。午後になると、2階階段付近に飾られた月桂樹の彫刻が、反対側1階の壁にシルエットになって幻想的に映る。壁がスクリーン機能となっていたのだ。

また、ボランティアの方の清掃活動で、水路の稲田石の黒い模様がよみがえり、階段からエスカレータで壊される予定だった壁にまでつながっていたことも分かった。黒い模様の石の配置がパズルのように組み合わせられている。

広場に屋根やエスカレータを取り付けたり、階段を削って車を進入しやすくしたり、外壁を壊して窓ガラスにしたり、テントを張るためにタープをつける穴を開けようとしたり―。この1年半、こういったことを計画した人の心理が理解できなかった。けれども、その謎もだんだん解けてきた。

つくばには、何もない広場を3密(密集、密接、密閉)化しようと考えている「3密族」がいるのだ。にぎわいを作り出そうとしているのなら分かる。だがそうではない。3密族には、センター地区の意匠もプリツカー賞も眼中にない。ただただ、人が集まり、その人たちから賞賛を浴びたいだけなのだ。

賞賛、賞賛、賞賛…。しかも改修の進め方は、内密、秘密、隠密…。つくばのシンボルであるセンタービルはそのために利用されている。3密族の闇は深い。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(脚本家)

<新春つくばセンタービル謎解きツアー>
▽内容:隠された建築の謎を解きながらビルを回る
▽日時:第6回=1 月16日(日) 、第7回=同30日(日)、13時から約1時間
▽定員:10人(小中高生大歓迎)、参加費無料
▽予約:090-5579-5726 (冠木)