【コラム・相澤冬樹】銀杏を「いちょう」と読めば街路樹、「ぎんなん」と読めば農作物になる。前者はほぼ雄(オス)の木が並木を作り、後者は雌(メス)の木が畑に植わっている。雌雄異種といい、公園や社寺の古木は雌雄入り乱れる(?)形だ。イチョウ栽培歴30年、農事組合法人、つくば銀杏生産組合(石岡市半田)代表の櫻井和伯さん(66)にウンチクを含め語ってもらった。

組合名にある銀杏は「ぎんなん」。櫻井さんが土浦、石岡の圃(ほ)場で栽培しているのは久寿、喜平などの接種済銀杏樹木(接ぎ木で繁殖した雌木)で、販売もしている。これまでに県内外に1万本近くを植えてきた。かたや自宅わきの加工場で生産しているのは「実」の方、食用の部分は種子の中にあり、厳密に言えば「胚乳」という。9月半ばになると櫻井さんの植えた銀杏畑から、栽培農家が果肉を削いだ銀杏の種子を持ち込んでくるので、蒸して殻を割り「実」を取り出した上で選果する。

加工後の色合いが特徴的。「翡翠銀杏(ひすいぎんなん)」と呼んで商標登録している。最上級ランクの「特選翡翠」は鮮やかなグリーンをしている。黄味が加わるほどに「翡翠(ライトグリーン)」「シャトルルーズイエロー」と並ぶラインアップ。分かりやすいたとえでいうと「枝豆から大豆への色合いの変化に似ている」、味は未熟感に好みが分かれるが「まろやかさ」が身上という。

蒸して冷凍保存で緑色を保つ翡翠銀杏

鮮やかなグリーンや未熟感にはわけがある。ぎんなんは実が青いうちに、落果を待たずに収穫してしまうのだ。機械で一気に実を落とす。今年の場合で9月18日ごろから摘み取りが始まり、特選翡翠は最初の10日間が勝負、次の10日間だとライトグリーンになってしまう。手早く収穫し、蒸す加工で黄化にストップをかけ、冷凍保管して出荷を待つ形だ。

市場出荷はしておらず、スーパーや小売店では購入できない。櫻井さんによれば「固有名称は勘弁してほしいが、高級ホテル、レストランを中心に取り引きしている」そうだ。翡翠銀杏は素揚げや天ぷら料理などで提供されているという。高級食材だ。

時代が昭和から平成に切り替わる1990年頃、櫻井さんは公園の植栽や街路樹用にイチョウの苗木を栽培して販売する事業から始め、農事組合法人は2002年ごろに立ち上げた。雄木から雌木への転換で、2008年いち早くぎんなん生産のJGAP認証を取り付け、総合衛生管理のHACCP(ハサップ)実施施設認定や県の6次産業化(総合化事業計画)認定も取得してきた。

ぎんなんは近年、栽培面積、生産量とも頭打ち(全国の栽培面積662ヘクタール、収穫量835トン、出荷量632トン=2018年特産果樹生産動態等調査)。中国産の輸入量が増えて価格も低迷している。そのなかで生産組合は独自路線を貫く。今季、県内30数件の栽培農家から実が持ち込まれ、約15トンが生産できたそう。「ぎんなんは年ごとの収量の差があまりなく、豊作の年は実が小さく、不作の年は実が大きさがカバーする。今年は前者だった」

櫻井さんは最近、栃木県内にも銀杏の木を植えている。イチョウに黄葉前線があるようにぎんなんも結実時期が北上するから、茨城県産の後に収穫時期を迎える栃木県産が入ってくる形をとれば、翡翠銀杏の生産期間が延びる。「次は新潟県だな」、さらなる生産拡大を狙っている。