【コラム・先﨑千尋】10月初め、坂東市にあるJA岩井を訪ねた。同農協は未合併。なぜなのかを知りたかった。また、ネギ、レタスの生産では他の産地の追随を許さない王国の実態を見たかったから。風見晴夫組合長(JA茨城県中央会副会長も兼務)や担当職員らの話を聞き、昨年完成した新予冷センターを見て、農協はこうあるべしと納得した。

風見組合長は自ら水田150ヘクタールを耕作している。野菜農家がネギやレタスの生産に専念できるように田んぼを任され、いつの間にかそれだけの面積になったという。八木岡努JA茨城県中央会長もイチゴの専業農家。今は専業農家で組合長になる人は珍しい。組合員に信頼されているからだ。

「食は人間が生きていくには欠かせないもの。戦争で日本が負け、アメリカの食文化が入り、小麦がコメに代わった。日本人の体質に合った食文化が忘れ去られている」「メディアは野菜がちょっとでも高くなると大騒ぎする。下がった時には報道してくれない。そこがおかしい。農家の苦労を知ってほしい」

農に対する情熱が、語る口からほとばしる。はるか昔、この地で反乱を起こした平将門のことが脳裏に浮かぶ。

農協合併が進んでいるが、どうして岩井は合併しないのか。「合併しなくていいというのが組合員の意向。農業で食べていくにはどうすればいいのか組合員が判断し、決める」。当たり前のことだが、なんともすっきりした話だ。ほとんどの農協は総代会制度を取っているが、ここではずっと全組合員が参加する総会で農協の方針などを決めている。

昨年度の販売高は62億円

岩井地区は利根川に面し、東京まで50キロ。以前から野菜作りが盛んで、東京の市場まで直接運んでいた。消費者が求めているものをつかみ、経営(作付け)に活かす。その結集が今日のネギとレタス。昨年度の販売高はネギが38億円、レタスが23億6,000万円で、1戸平均の販売額は1,700万円を超える。

耕作面積は75アールだから、県の平均よりも少ない。「先人たちの苦労、努力が今日の成果につながっている」と風見組合長はさりげなく話す。

国は今年になって「みどりの食料戦略システム」を打ち出し、有機農業に取り組むことにしているが、同農協では、20年以上前から土にこだわり、栽培にこだわり、いいものを作りたいという農家の考えに従って、発酵鶏糞や豚糞、有機70%の肥料を使い、「野菜名人」というブランドまで作り上げたという。農協の職員は、組合員の考え、願いを実現するために働くという姿勢がうかがえる。

昨年完成した鵠戸(くぐいど)の新予冷センターを見せてもらった。農家が運んできたネギやレタスなどを急速冷却し、全国の産地に届ける。札幌へは飛行機で運ぶ。予冷は鮮度の保持と品質管理に役立ち、消費者の手に届くまで品質を保つことができる。コロナの影響で外食産業の打撃は大きいようだが、いずれは回復するという期待を持ちながら、同農協を後にした。(元瓜連町長)