【コラム・玉置晋】災害は忘れたころにやってくる。地球物理学者の寺田寅彦先生の言葉と言われておりますが、宇宙天気による災害は忘れるどころか、経験したことがある方はほとんどおりません。

ただ、2003年のハロウィンの時期に宇宙業界で働いていた方は、痛い目に遭われたと思います。同年10~11月の地球周辺のプラズマ環境の悪化は、日本の人工衛星1基の息の根を止めるとともに、動いていたミッションの総点検が入ることになり、日本の宇宙開発が止まる事態となりました。

ただでさえ就職氷河期であった上に、宇宙業界の採用がほぼなくなり、当時、就職活動を控えていた僕は翻弄(ほんろう)されたものです。だから、僕はハロウィンが嫌いだし、宇宙天気を甘く見るのも嫌いです。宇宙天気は因縁の相手だと思っています。

英国の宇宙天気準備戦略

9月に英国で「UK Severe Space Weather Preparedness Strategy(英激甚宇宙天気準備戦略)」というドキュメントが出版されました。出版したのは英ビジネス・エネルギー・産業戦略省です。

英政府は2015年に宇宙天気戦略を発表して、それに基づき様々な分野で宇宙天気災害に対する準備をしています。今回はそのアップデート版で、2021~25年の5カ年計画となっています。同様の戦略は米国でも2015年に発表され、昨年、アップデート版が出版されました。

英国の戦略には、評価、準備、対応と復旧―の3つの柱があります。評価の柱は、激甚宇宙天気とその影響および予報能力に対する理解を深めることです。特に、航空機、公衆衛生、測位システムの安全を含む分野に焦点を当てます。

準備の柱は、重要インフラのサービスのレジリエンスを高めることです。行政や事業者が激甚宇宙天気に対する強固な対応計画を持ち、定期的な防災演習を実施するそうです。

対応と復旧の柱では、宇宙天気災害からの迅速な復旧を保証することに焦点を当てます。このように、国がトップダウンで宇宙天気防災戦略を練っているわけです。

日本では政権が新体制となりました。宇宙分野では内閣府特命担当大臣(宇宙政策)というポストがおかれました。どのような仕事をされるか、注目しているところです。新大臣には、宇宙天気防災戦略を検討するイニシアチブをとっていただくよう期待しています。(宇宙天気防災研究者)