【コラム・浅井和幸】カーナビゲーションシステム、いわゆるカーナビはとても便利なものですね。方向音痴な上に、物覚えの悪い私にとっては、茨城県内の相談依頼人のところに自動車で伺う時には、なくてはならないものです。

30年ほど前、ほとんどカーナビが普及していない時代には、数千円する地図を買って、前日に行き先を調べていました。大切な用事の時は、前日までに予行演習で目的地まで行って確かめることもしていましたね。20年前でも、インターネットの地図をプリントアウトして調べていました。

道順を赤ペンで書いて確かめていましたが、1回でもその道順から外れてしまうと、自分がどこにいるか分からなくなり、お店の人や道を歩く人に現在地を聞くしかありませんでした。

現在地が分かることが、カーナビの最大の利点だと思います。ナビの指示通りに行かず道を間違っても、またそこからの道順を再検索してくれます。

「どこまでできているか」を確認

悩み相談でも、全く同じことが言えます。いかに現在地が分かるかが大切です。不登校やひきこもりの子を持つ親御さんが相談に来た時に、お子さんがどのようなことができるのか、親御さんがどのようなことができるか、どのように関わることができるのかを洗い出していきます。

全くコミュニケーションがないとか、親の言うことは全く聞かないという悩みで来談される方もいますが、話を聞いてみると、ご飯やお風呂の呼びかけに返事はなくても応じていることもあります。これだけでも、親御さんが言っていることを子供さんは受け入れて行動しているということになります。

返事をしなければ全くコミュニケーションがないというわけでなく、意図をくんで行動に移すというやり取りができているのです。

そこまでができることと考えれば、もしかしたら簡単な掃除や洗濯などの手伝いをお願いすることができるかもしれません。すぐに家事の手伝いをしなくとも、いつもと違い、さらに一歩進めた言葉がけができる可能性があるということです。

どのような言葉がけをするかは、「目的地」により変わります。いつも頑張りすぎて疲れてしまっているお子さんであれば、リラックスできるような、休むことができるような働きがけをすることになるでしょう。仮にでもよいので、目的地はつくることが大切です。

支援者が相談に来られた方に質問をする時は、目的やニーズなどを聞き、現在地である「どこまでできているか?」を確認することが大切です。「どのように不幸であるか?」とか「どのカテゴリーに属するか?」などを大ざっぱに聞いていることが、現場で多いのではないかと私は感じるのです。

「筑波山の西側にいるから、東の方に向かえば海に着くかな?」で、うまくいくのならば、むしろ大ざっぱな方がよいのですが、それでうまくいかない時は、具体的な現在地を確認する試みが必要でしょう。(精神保健福祉士)