【コラム・古家晴美】ようやく猛暑の盛りを過ぎ、実りの季節が到来する。採れたての栗や落花生を目にされた方も多いだろう。今回は秋最大のごちそう、新米を取り上げてみたい。

現在、米といえば新潟県や北海道、秋田県を思い浮かべるが、令和2年の水陸稲収穫量を見ると、茨城県は全国7位で、堂々ベストテン入りしている。県南地域でファンが多い地域ブランド米と言えば、「北条米」だろう。

筑波山麓の桜川沿いに広がる平野には、筑波山の岩石のミネラル分をたっぷり含んだ水も注ぎ込んでいる。つくば市北条、筑波、田井、小田の4地域で生産されているこの米は、適度な粘りと甘み、冷めても照り輝きと旨(うま)味が失われないことから、最上ランキング特Aと評されるのもうなずける。

この地域の明治時代の記録によれば、米は農業産出額の7割以上を占めていた。そして、様々な野菜、果物、畜産が生産経営されている現在でも、つくば市の農業産出額を見ると、2位の野菜を大きく引き離し、米が1位に輝いている。立派な米どころだと言える。(令和元年市町村別農業産出額=推計=)

生産者に敬意を表していただく

ところで、この時期、何段階かで収穫の労をねぎらうご馳走が作られてきた。稲刈り開始にあたり、赤飯や混ぜご飯を食べる(土浦市、つくば市、麻生町)。また、稲刈り完了を祝うのに、赤飯やぼたもちを作り、神棚や仏壇に供え、手伝ってもらった家には重箱に詰めて配る(土浦市、つくば市、牛久市、麻生町)。あるいは、新米で油揚げ、人参、かんぴょうが入ったカリアゲメシを炊き、神棚、仏壇、オカマサマに供えた(つくば市)。

そして、脱穀を済ませた後、新米を臼でひき、オカマノダンゴという団子を作り、オカマ様に供え、近所にも配った。一度にたくさんの団子を作り、毎日ゆで直して餡でくるんで食べた。地域により、あるいは時代的な変化により、これらすべてがそろっているわけではないが、収穫の喜びとそれまでの労苦がうかがえる。

新米を特別に扱うのは、農家だけではない。阿見町大室のOさんは、現在でも新米を人からいただくと、「食べ初め」として、炊いたご飯に、尾頭付きの魚、ヌッペ汁(大根、人参、ゴボウ、里芋)を添え、感謝を込めて神仏に供えてからいただく。

新米で卵掛けご飯も魅力的だが、新米に(無論、生産者の方に対しても)敬意を表していただくと、一段と味わい深いものになるのではなかろうか。(筑波学院大学教授)