【コラム・奥井登美子】

「コロナが心配で、心配で、朝まで眠れないんだ。睡眠薬5ミリではだめなので、今度10ミリにしてもらった」

近所に住むAさんが処方箋を持ってやってきた。ゾルビデム5ミリグラムが10ミリグラムなっている。この薬は向精神(こうせいしん)薬で、認知症を促進するデータがあるといわれている薬である。Aさんと高校時代からの同級生で仲良しのBさんに聞いてみた。

「このごろ、2人で散歩していないわね。けんかでもしたの?」

「けんかなんかしていないよ。けれど、A君このごろ、ちと、おかしい。いつもと同じ道を歩いているのに、違う道だ、なんて言うんだ」

「困るわね」

「散歩に誘っても来ないし、僕も心配しているんだ」

薬なしで眠れる方法をトライ

認知症でない人が、コロナで外に出ない。人と会話ができないなど、日常生活での刺激がなくなって、認知症になってしまうケースも多いと聞く。もし、認知症になってしまったら、一番苦労するのは家族である。

Aさんが、もし認知症になってしまったら一番困るのは、Aさんの奥さん。ご近所だから、ゴミ出しの時などお世話になっている人である。私は、NHKテキスト「きょうの健康」8月号の「コロナ禍での認知症」特集のコピーを持って家に行ってみた。

「ご主人の睡眠薬マイスリーが5ミリから10ミリになっているの。どうして増えてしまったのかしら? 認知症になってしまってからでは遅いわ。奥さんが、ご主人をだまし、だまし、誘導して、認知症予防をしなければ大変よ」

「眠れない、眠れないって、大騒ぎなの。眠れないと、夜中に公園に行ってしまうの。真っ暗だから、もし転んで倒れても、誰も助けてくれない。どうしたらいいのかわからないので、医者に行って、もう少し効く薬出してもらいなさい、なんて、私が言ってしまったの」

「薬に頼り過ぎるのよ。薬なしで眠れる方法を、2人でトライしてみたら?」

昼間、重労働して身体を動かせば、夜は否応なしに眠くなってしまう。眠れないというのは贅沢だ。自動化、機械化が、人間をいつのまにか、むしばんでしまっている。(随筆家、薬剤師)