【コラム・田口哲郎】
前略

TOKYO2020オリンピック・パラリンピックが紆余曲折(うよきょくせつ)を経て開催され、閉会しました。今回はオリンピック閉会式で印象的だったことを書きたいと思います。

次の五輪開催地はフランス共和国の首都パリです。東京都知事小池百合子氏からパリ市長のアンヌ・イダルゴ氏に大会旗が手渡される際に、パリ大会の紹介動画が流れました。オーケストラが、パリの名所を背景に、フランス国歌のラ・マルセイエーズを奏でます。これは何の変哲もない紹介動画として受け流すこともできますし、かつて世界の首都を誇った古都がクラシック音楽にのせられて映し出されることに違和感を覚える必要はないでしょう。

しかし、私は驚きました。口をついてでた言葉は「なぜ?」です。パリはかつての勢いを失っているなどと言われますが、大国フランスの首都であり、ヨーロッパ有数の巨大都市に変わりはありません。パリは古いと同時に新しい。いまだにファッション、ポップカルチャーの発信地でもあります。世界的に文化はサブカル化しています。日本のアニメ、ゲーム、そしてKawaiiは世界を席巻している。正統ではなく亜流がウケる時代のはず。

現に東京五輪への引き継ぎ式のために、安倍前首相はリオデジャネイロでNintendoのマリオに扮して土管から飛び出したではありませんか。ポップ化する世界。当然パリもポップな先進性を強調する動画を流すと思っていました。

しかし、フランス人はクラシック音楽で首都を飾ったのです。背景にはルーブル美術館にある「サモトラケのニケ」の像も移っていました。これは古代ギリシアの彫刻。つまり、ヨーロッパ人はギリシア・ローマ人の末裔(まつえい)であり、古典的文化を継承しているという主張です。古代中国文明圏にありながら近代化した日本はアジア的大らかさを持っている。和を重んずる性善説の人々です。よそ様が喜ぶとなれば、浮かれてコスプレもする。

でも、我々に近代化を迫った欧州人は、浮かれたようなふりをして実は大真面目に自文化を堅守している。決しておどけたりしない。このコンセプトで行くならば、安倍氏は羽織袴(はかま)を着て、琴・三味線を引き連れて「六段の調」をBGMに旗をもらうべきです。

コロナ禍に勝ったヨーロッパ

そして、コロナ禍にも関わらずトロカデロ広場に密集する群衆が映り、エッフェル塔展望台のマクロン大統領は「共に!」と叫びました。「了解」と私はつぶやきました。ヨーロッパはコロナ禍に打ち勝ったという主張を受信したからです。ヨーロッパは負けません。むしろ勝とうとします。

彼らは確固たるルーツと世界に誇る古典文化を持ち、「教化」しようとします。コロナ禍後の新生活様式により、グローバル化はますます進展します。ヨーロッパ・スタンダードは国のみならず個人に直接働きかけるでしょう。明治以来の日本の近代化はまだ継続中で、我々は欧州に対抗する自覚を持つべきです。ごきげんよう。

草々(散歩好きの文明批評家)