【コラム・室生勝】介護保険制度実施の前夜は大忙しであった。新しく誕生するケアマネジャーは、在宅で介護保険サービスを利用する高齢者に、地域ケア推進事業のコーディネーターのようにケアプランを立て、ケアチームの要になる職種である。地域医療カンファレンスに参加している看護師、保健師、社協職員たちも、資格取得を目指しているようだ。全員に合格してもらおうと、カンファレンスの医師たちは模擬試験問題を作成して応援した。

出題傾向が分からない、初めての試験のせいか、合格率は低くかった。茨城県社協の資料を見ると、第1回の1998年は20万人が受験し、9万人が合格した。ケアマネジャー資格を取得したのは、保健師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士たちで、医師、歯科医師、薬剤師はごく少数であった。これら職能団体それぞれが提唱するアセスメント方式(注1)の研修で、ケアマネジャーたちは業務以上に多忙であった。

土浦、つくばの両カンファレンスは、アセスメント旋風に関係なく、私たち医師はクリニック、病院、行政、ケアマネジャーや通所サービス、訪問サービスの居宅サービス提供者、施設の職種など、それぞれが連携を怠らないよう注意を喚起していた。一方で医師会は、介護認定に必要な主治医意見書の記載法くらいしか関与しなかった。

2000年4月、介護保険制度発足で、行政も職能団体も、てんやわんやだった。一方、地域ケアシステム推進事業は、県が各市町村のケアチーム数を公表するだけだ。県全体のケアチーム数のピークは2004年度の1万688チームだったそうだ。それらの成果は、経験交流会も開かれず、事業報告書も出ず、不明であった。

県事業が始まって22年目の2016年6月になって、「茨城型地域包括ケアシステム推進マニュアル」(注2)が公表されたのには驚いた。どのような資料で検討作成されたか明らかでない。50ページにわたり、20数例のケアマネジメント困難事例が紹介されているだけで、各市町村の地域ケアシステムづくりは見えてこない。

「はじめに」に「本マニュアルを通じ、それぞれの市町村において、相談・支援体制のあり方などについて関係者間で活発な議論がなされ、地域に応じた相談・支援体制の構築に向けた一助となれば幸いです」とある。県は県事業の「地域ケアシステム推進事業」を「地域包括ケアシステム」構築にようやく結びつけたのだろうか。(高齢者サロン主宰)

(注1)介護におけるアセスメント(評価)とは、介護を行う前に、その利用者の状況を整理する事前調査。

(注2)茨城県ホームページ>茨城で暮らす>福祉・子育て>地域包括ケアシステム関係>茨城型地域包括ケアシステム推進マニュアルの策定及び公開について