【コラム・浅井和幸】引きこもって家から出ないお子さんを持つ親御さんが、相談室に来談することがあります。私は、お子さんの人とのつながりがどのようなものかお聞きします。外に出ることもないので全くないという回答もあります。

親御さんに、お子さんとどれぐらいのコミュニケーションがあるのかお聞きしますと、「ほとんどない」「全くない」と答える方は多いものです。全くないということは、意思疎通が全くないということですから、「生きていけるのかな?」と疑問を持ち、例を挙げて詳細に質問をします。

例えば、テレビを見て雑談はするか? ご飯は食べるかと聞いてうなずくか? 全く顔を合わせることがないとしても、食事をドアの前においたら、食べ終わった食器をドアの前に置いておくか?

ここに挙げたような例もないという答えもありますが、ほとんどは、それぐらいのやり取りはあるようです。コミュニケーションというと、「笑顔での会話」と捉えていることが一般的のようですが、私は「意思疎通」だと思っています。このようなズレを、まさにコミュニケーションで縮めていくために、相談時間を費やすことも多いものです。

ネット検索では反論も併せて検索

自分が感じたり考えたことを、言葉や身振り、表情などで伝え、それを相手が感じ取り、解釈して返事をしたり、質問をしたりする。これを繰り返すことが大切です。特にうまくことが進まないときは、こういったやり取りを丁寧にする必要があります。

物事を単純化して、「元気になるためのたった3つのこと」とか「世の中には2つの人間しかいない」とか「簡単〇〇ダイエット」とか「これをするだけでお金持ち」といった表現がもてはやされますが、それでうまくいかないことの方が多いはずです。

全てを信じること、全てを疑うこと―どちらも同じぐらい危険や不便をはらんでいます。なので、ネットで検索するときは反論も併せて検索するとよいでしょう。人の言うことを全て鵜吞(うの)みにしていたら詐欺に引っかかるかもしれませんが、全てを詐欺と疑っていたら郵便物さえ受け取れなくなってしまいます。

失敗し、悩み、事実を受け入れながら行動をして学んで、また次に学びを生かしていくことが大切です。これさえやればよい、あるいは大逆転―といった方法はそうそうありません。

「何を伝えたいか」は日常的によく考えることだと思います。その一つ先、「どのように伝わるか」を考える習慣をつけてみましょう。そして、さらに一つ先の「物事がどのように動いて、どうなってほしいか」という目的にかなう手段として、コミュニケーションを考えてみてください。などなどと、独りよがりの押し付けの文章を書きながら、自問自答する毎日です。(精神保健福祉士)