【コラム・奥井登美子】

「肌の荒れないマスクありますか?」

「顔のお肌に何か炎症でも…」。

客は若い女の人。マスクを外して肌を見せてくれた。

「ほら、こんなに赤くなってしまって」

目の下、頬のあたりが赤くなってしまっている。ここ2~3日の蒸し暑さは普通ではない。マスクでふたをされて、顔にいわゆるアセモができてしまっている。

「あら、赤くなってしまっていますね」

「皮膚科で診てもらいたいと思っても、お医者に行くのにもマスクが必要なので困っているの」

世の中には、私みたいに精神的にも肉体的にも面の皮の厚い人と、薄い人がいる。薄い人は敏感で、ちょっとした刺激でも皮膚に炎症を起こすので、暑さの中、マスクと顔の皮膚炎の心配もしなければならない。

自分の「精神安定剤」を自分でつくる

コロナ禍のなか、友達からの電話相談も多い。

「もしもし、家族がコロナになったらどうしよう。心配で、心配で、夜、眠れないのよ」

「体を動かしていたら、疲れて、夜、ぐっすりよく眠れるわよ。体を動かせばいいのよ」

「外へ出たりしたら、コロナが大変だから、どこにも出たくないの」

「私は家庭菜園をやって、体を鍛えているの。今日も、ナス3本とキュウリがとれたわよ。どうやって料理して亭主に食べさせようか、料理を考えるのも楽しいし」

「そんなの、私には無理だわ、明日、医者に行く日なの。先生に頼んで、よく効く眠り薬を入れてもらいたいの。名前教えて…」

「睡眠薬? それだけはやめた方がいいわ。副作用で認知症が進むというデータもあるし、認知症にだけはなりたくないでしょ」

「父の認知症で苦労したの。絶対なりたくないわよ」

「自分の精神安定剤を自分でつくりなさいよ」

「薬? 薬なんか、つくれないでしょうよ」

「何か一つ、創造的なものを目標にして、それにまい進してみるの。絵でも、俳句でも、料理でも…」

友達だから面の顔の厚さで、ずけずけと、精神安定剤の怖さも言えるけれど、薬局のお客には言えない。(随筆家、薬剤師)