【コラム・先﨑千尋】脱原発をめざす全国の首長らで構成する「脱原発をめざす首長会議」は7月11日、福島県南相馬市内で記者会見を開き、「政府は汚染水の海洋放出を断念せよ」という緊急声明を発表した。同会議のメンバー14人は、前回本欄(7月26日付)で触れた通り、前日に東京電力福島第1原発の事故現場を視察し、11日には北隣の相馬市の松川浦を訪れ、特産のアオサノリの養殖漁師・遠藤友幸さん(60)から原発事故後の漁業の実態を聞いた。

遠藤さんは、汚染水の海洋放出について「原発事故後、汚染水が出るのはわかっていたことだ。しかし東電はこれまでしっかりした対応をしてこなかった。納得できず、反対するしかない。バリケードを作ってでも阻止したいくらいだ。放射能の汚染を減らしながら収穫量を回復する努力を続けてきたが、市場価格はなかなか回復せず、今回の汚染水放出の決定。残念だ」と不安と怒りをぶちまけていた。

遠藤さんはさらに、後継者がいない漁家の中には、カネ(補償金・賠償金)をもらえば漁業を止めてもいいという人が出てくるかもしれない、と苦悩の表情を見せていた。

東京電力が6年前、福島県漁連に「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と文書で約束しながら今回の一方的な海洋放出決定をした背景には、漁民はカネでなんとかなるという心算が政府、東電にあるのだろうと考えている。

海洋放出は「人の復興」に逆行

記者会見では、同会議の佐藤和雄事務局長(元東京都小金井市長)が声明文とその背景を説明した後、参加者がそれぞれ視察の感想や汚染水への考えを述べた。同会議ではこれまで2019年、2020年に「汚染水は長期保管を」、「地元関係者が納得し、『人の復興』を最優先にした案を、透明性の高いプロセスにより決定するよう求める」という声明を出している。

それを受けて、今回は「大型タンクによる長期保管、すでにアメリカで実施例があるモルタル固化といった海洋放出を回避するための代替案について検討が尽くされているとは思えない。政府は『人の復興』に逆行する海洋放出を断念し、陸上での保管・処理へ舵を切るよう求める」という声明を出した。

記者会見する首長会議メンバー(右側の列)

記者会見で、同会議世話人の1人である桜井勝延前南相馬市長は「汚染水問題は自分には関係ないと思っている人は、安全だという国と東電の説明をうのみにしがちかもしれないが、漁業者にとっては自分の人生をダメにしてしまうような大きな問題」と語っていた。

私は「政府・東電は風評被害と言っているが、風評ではなく実害。賠償問題に関し、この10年の東電の対応を見ていると、被害者の声に耳を貸さず交渉を一方的に打ち切るケースが多く見られ、今回の海洋放出でも同じことが起きるのではないか。カネでは被害は救済されない」と話した。(元瓜連町長)