【コラム・奧井登美子】野口雨情作詞、中山晋平作曲の童謡「黄金虫(こがねむし)」の歌詞。

黄金虫は金持ちだ

金蔵(かねぐら)建てた 蔵建てた

子供に水飴(みずあめ)かって来た

黄金虫は金持ちだ

金蔵建てた 蔵建てた

子供に水飴なめさせた

私たちが小学生のころ、茨城県生まれの野口雨情の童謡をよく歌った。戦中、戦後、甘い物に飢えていたので、水飴を子供になめさせた虫がうらやましかったのかも知れない。

私たちも子供たちも楽しみにしていた「昆虫観察会」も、今年はコロナの感染拡大で急に取り止めになってしまった。

適応力に優れたゴキブリ

「黄金虫は、昔は山にしかいない山の虫で、卵の鞘(さや)が昔の財布の形をしているので、縁起の良い虫として大事にされていました。何十種類もいる中で、頭の良い2種類だけが人間の家庭に進出し、繁栄したのが、いわゆるゴキブリです。残りの種類はまだまだ山の中にたくさんいますので、見つけてみて下さい」

以前の昆虫観察会のときに、私がつい口を滑らせてしまった黄金虫とゴキブリの話。参加のお母さんに叱られてしまった。

「せっかくきれいな森に来たのだから、ゴキブリの話なんかしないでください。私はゴキブリと聞いただけで、ダメ。気持ちが悪くなるのです」

すばしこくて、頭の良い、適応力に優れた昆虫が尊敬されるのかと思ったら、その反対に、その嫌われ方が、蚊や蠅(はえ)などの比ではない。適応力に優れた生物に対しての恐怖。人間の頭脳との競争。なぜだろう? 黄金虫の運命は人間の運命を予告するのかも知れない。(随筆家、薬剤師)