【コラム・田口哲郎】

前略

つくば科学万博(国際科学技術博覧会)のテーマが「人間・居住・環境と科学技術」だったと、前回(6月10日付)書きました。つくば万博というと、自然開発や快適性増進のための科学技術の祭典というイメージがありました。しかし、1985年というバブル期直前の時代にも関わらず、住環境や環境に配慮したテーマが掲げられていたのです。

そこで小学生の時、2回訪れた際に入手したガイドブックやパビリオンのパンフレットを引っ張り出してきて、当時を思い出しながら見返しました。一番印象に残っているのは、芙蓉グループが出展していたロボットシアターです。さまざまなロボットが行うショーは楽しく、ロボットのデザインも近未来的でワクワクしたものです。ロボットは「友だちロボット」と呼ばれ、人間との共生が強調されていました。

この共生は、手塚治虫の鉄腕アトムや藤子不二雄のドラえもんなどで扱われてきたものです。カラフルでかわいいロボットが繰り広げるショーを眺めながら、子供ながら自然に明るい未来を思い描くことができました。

今顧みて驚いたパビリオンがあります。日本電信電話株式会社(NTT)のでんでんINS館です。INSは後にADSLとなり、現在の光通信へと進化する高度情報通信システムのことです。配られたパンフレットの中に「INSが築く便利なくらし」というページがあり、テレビ電話やネットショッピングが挙げられています。そして、インターネットを使った自宅学習、在宅勤務、ホームドクター(在宅医療)も書かれています。コロナ禍になって一気に現実味を帯びたことが網羅されています。

高度に産業化した社会が情報化し、集中から分散へシフトし、地域社会が復権し、プラクトピアという社会になるという予言はアルビン・ トフラーの『第三の波』(1980年)でなされていました。このような壮大な予言でなくとも、今現在起こっている事象が35年前にはすでに実現可能なものとして発表されていたんですね。

これからの社会の夢は何か?

ところで、でんでんISN館のテーマは「INSがひらく夢のあるくらし」でした。あのころの夢が実現している2021年現在、便利なくらしは夢に満ちているでしょうか? コロナ禍ということで夢どころの話ではないのですが、それにしても、かつての夢が現実に落とし込まれると、それは夢っぽくなくなるのかもしれません。

夢とは一体何でしょうか。それに、今現在の社会が描ける夢はなんなのだろうかと考えると、これからの社会があまりにも読みにくいので輪郭すらつかめません。2025年開催予定の大阪万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」で、キーワードは「共創」です。博覧会は、夢の裏には堅実な科学技術・思想があるのだと教えてくれます。競争ではなく共創、夢のためのヒントは何なのか注目したいと思います。ごきげんよう。

草々(散歩好きの文明批評家)