【コラム・塚本一也】昨年、西武筑波店が閉店し、今年1 月末には隣接しているイオンつくば駅前店が閉店します。ここ数年、百貨店業界全体の売り上げが伸び悩んでおり、特に地方店舗の売上減少は著しく、近隣の柏そごうも閉店しました。

柏そごう閉店の原因につくばエクスプレス(TX)沿線のSCへの顧客流出も挙げられますが、西武筑波店はTXの拠点駅に構える店舗であり、TX開通後も売り上げが伸び悩んだ背景には別の原因があるのではないでしょうか。

しかも、つくば市はTX開通後の10年で人口が3万人以上も増えており、現在のつくば駅の1日乗客数は1万9千人ぐらいです。これはJR常磐線の土浦駅や南千住駅よりも3千人ほど多い数字です。TX沿線で西武筑波店は都内を除く唯一の百貨店にもかかわらず、そのメリットを生かし切れなかった原因はどこにあるのでしょうか。

まず、つくば駅は地下駅であるため近隣店舗への誘導は地下からのアプローチが有力です。しかし、TXが取り入れている先進的なユニバーサルデザイン(バリアフリーを広く一般的に適用した設計手法)の設備は改札を出たところでその仕様が途切れています。地上へのエスカレーターとエレベーターが備わる出口は5カ所のうちA3番出口のみです。ここは西武筑波店からも一般車両の乗降場からも遠いところです。

さらにTXの改札から百貨店までの距離が長いので、平面移動にも工夫を凝らさなければ鉄道利用者を帰宅前の買い物客として呼び込むことはできません。昨今の百貨店事業において集客力のある店舗は食料品店街、いわゆる「デパ地下」です。JR東日本が成功させたエキナカビジネスでは、駅構内にデパ地下を造るのではなく「デパ地下に駅を造る」という全く逆のコンセプトで駅構内を設計しています。

デパ地下で客を集め、収益力の高い婦人服で利益を上げるのが百貨店事業の基本と言われています。さらにテナントやショップも目玉となる店舗をどう配置するのかという、いわゆるテナントリーシングが重要な鍵になります。鉄道利用客の移動負担を構造的に解決し、百貨店本来の洗練された魅力ある空間と客を楽しませる店舗配置、そして何よりも百貨店ならではのハイセンスで高級感のある品ぞろえと質の高いサービスを客は求めているのです。

今後、どのような店舗が入居しようとも、TXが地下で接続している以上、つくば駅周辺の主要な建物は地下駅からのアプローチを考慮した設計にすべきであろうと思います。さらに駅周辺に回遊性を持たせ、楽しさを追求したハード面の整備を行うなど、抜本的な都市計画の見直しも必要になるのではないかと思います。つくば駅周辺の官舎跡地も含めて、将来を見据えた大規模な再開発に取り組む時期に差し掛かっているのではないでしょうか。(大曽根タクシー社長)