【コラム・及川ひろみ】カエルがにぎやかな里山の谷津田(台地の浅い浸食で開かれた田んぼ、両側には雑木林)の畔(あぜ)植物を見て回りました。まさに百花繚乱(りょうらん)。宍塚の田んぼには今もレンゲ草が見られます。田んぼ一面に覆うほどではありませんが、遠目にもピンクが広がっています。そして畔には、足を踏み入れるのもはばかられるほど、草花の絨毯(じゅうたん)が広がっていました。

風にそよぐ黄色の花はオオジシバリ。カスミソウのような白い花を一面に咲かせているのはノミノフスマ。ハコベの仲間です。ムラサキサギゴケは名前のように紫の花がコケのように地面に這って広がっています。どれもよく見ると色も形も全く異なる造形の美。こんな世界が広がっていることに驚かされます。

かつて各地の水田や水路に生息していたドジョウやカエル、アメンボなどの生き物にも出会えます。日本の原風景の一部でもあったこの生物たちは、自然と共生した伝統的な農法が育む、水田や水路などの環境に適応し、息づき、進化、食物連鎖が成立しています。

水田・水路は、人の手が入った2次的な自然環境であり、原生の自然ではありません。しかし、隣接する山地や雑木林と一体となった、水田、水路、ため池は、生物多様性がきわめて豊かな場所。里山、里地と呼ばれる景観の重要な構成要素の一部です。

谷津田の米オーナー制

水田やそれにかかわる水環境は、日本をはじめ、稲作文化を持つアジア地域に広く分布していますが、国際的な湿地保全条約「ラムサール条約」でも、これを保全すべき重要な水環境(ウェットランド)の一つとして定義しています。日本におけるこれらの水田・水路は、国内で最も生物多様性の高い自然環境の一つであり、多くの日本固有種を含む、5,668種もの野生生物が確認されています。

谷津田の田んぼは平場の田んぼと異なり、面積が狭いことから大型の農耕用機械を使った耕作が行えません。農作業者の高齢化に伴い、耕作者が激減し、谷津田の田んぼは絶滅危惧状態です。宍塚の谷津田は「認定NPO法人宍塚の自然と歴史の会」と耕作者が協定を結び、「谷津田の米オーナー制」によって収穫した米の買い取り、谷津田での耕作を維持しています。

そして、この田もようやく田植えの準備、田のくろ(畔)塗り、代かきが始まります。田植えの準備が終わった田の畔を歩くことは禁物です。(宍塚の自然と歴史の会前会長)