《土着通信部》5 霞ヶ浦のユーグレナは今

雨上がりの河川敷、水たまりに浮かぶ油膜の正体は?

【コラム・相沢冬樹】ユーグレナといえば、健康食品、サプリメントに注目の素材。ビタミン、ミネラル、アミノ酸、不飽和脂肪酸など多数の栄養素を持ち、栄養価も高いと謳う。大手薬品メーカーからベンチャー企業まで参入して活況を呈している。

その名を初めて耳にしたのは、霞ケ浦で世界湖沼会議が開かれた1995年ごろだった。目にしたのは、川の淀みや水たまりにできる油膜の広がり。車のオイルやら機械油が漏れ出したみたいだが、藻類の一種ミドリムシが発生しているという。

霞ケ浦がアオコに悩んでいた時期だから、新手の脅威かと警戒して調べると、学名をユーグレナという古い原始生物だった。0.05㎜ほどの単細胞生物で、外形は鞭毛(べんもう)を持つ動物だが、細胞内に葉緑体を持って光合成する。植物とも動物ともつかぬ共生体である。

ユーグレナは環境中の二酸化炭素を吸収し、水を分解して酸素と糖を作りだしてエネルギー源にしている。暗闇など光合成を絶つ環境に置くと、体内に蓄積した糖分を脂肪に変えることでエネルギーを生み出そうとする。この脂肪分が良質の燃料となるということであった。

循環型社会の形成が叫ばれ出した90年代、湖沼会議でもバイオマスという考え方がしきりに強調された。そのなかにユーグレナから作るバイオ燃料もあった。つくばの研究者らは霞ケ浦流域の河川やため池でユーグレナを探し回り、原株を採集した。培養して油を効率的に回収できれば、農地を油田に変える技術になるといい、後には代替航空機燃料としても有望視されるようになった。

雨上がりに桜川の河川敷などを歩くと、今でも写真のような生息環境を目にできる。雨天、曇天で光合成が阻害され、しみ出た油膜が水たまりに浮かぶ。下地の赤茶色は、脂肪分を排出した藻の残滓(ざんし)が折り重なったものだろう。油分の出どころには緑色の藻が色濃く群生している。

食えない見た目だが、その食品機能性がクローズアップされるに従い、バイオ燃料への熱気は急速に冷めた。ベンチャー企業の立ち上げやら産学官協同での企業化などのニュースはあっても、再生エネルギーや航空産業などで利用や実用に至ったとは寡聞にして知らない。つくばでも、四半世紀の間に産総研のバイオマス研究グループは西日本に移り、筑波大学は同じ藻類でもボトリオコッカスやオーランチオキトリウムの培養に研究をシフトさせている。

ユーグレナは微生物のなかでも増殖のスピードが遅く、量産技術の確立にメドがたたなかったらしい。循環型社会の形成を旗印に、汚泥や間伐材処理のバイオマス事業が各地でさかんに立ち上がったが、これまで座礁や空中分解ばかりが続いた。枕を並べての討ち死にの列にユーグレナ燃料も加わった。

2018年10月の第17回世界湖沼会議でも分科会「流域活動と物質循環」でバイオマスが取り上げられる。2回の会議の間の検証は行われるのだろうか。(ブロガー)