【コラム・瀧田薫】バイデン米大統領は、就任99日目の4月28日、上下両院合同会議で就任後初の議会演説に臨んだ。これは異例の遅さである。しかし、演説は、この短期間内に上げた成果を自画自賛し、さらなる目標の迅速な達成を予告する、自信にあふれたものであった。

バイデン氏が大統領選に勝利した直後、新政権の先行きを危ぶむ声が専門家の間で大勢を占めていた。しかし、100日目現在、新政権への評価は総じて高い。バイデン政権4月時点の支持率は59%(ピュー・リサーチ・センター)と、歴代大統領と比較すると高い方には入らない。しかし、トランプ氏の39%を大きく上回った。トランプ政権末期にあらわになった米社会の分断、分裂現象が依然として吹き荒れている中にしては上出来と言えよう。

さて、演説について筆者が注目するのは、バイデン氏が「世界に背を向けた前政権の姿勢とは決別し、同盟国との国際協調路線をとる」とし、同時に、「国外でのあらゆる活動は、米国の労働者(中間層)を念頭に置いて行う。外交と国内政策の間に、もはや鮮明な線引きはない」と宣言した部分である。

実は、この宣言は、数年前に発表された「報告書」が下敷きになっている。ヒラリー・クリントン氏が2016年の大統領選でトランプ氏に敗北した後、バイデン氏が主導して敗因を分析し、「中間層のための外交政策の見直し」と題する報告書を発表。それには、「外交エリートが支配する外交政策を国民の利益の観点から見直し、衰退する中間層に対する配慮を盛り込む」ことが強調されていた。

中間層のための外交政策の見直し

つまり、バイデン氏は、中間層支援策(国内政策)と外交政策を一つに組み込んだ政策パッケージを早くから用意し、大統領就任と同時に満を持して打ち出したのである。

トランプ氏によって取り込まれた米中間層の支持を民主党に取り戻さなければならない。同時に、中国というライバルやコロナウィルスや地球温暖化という誰も経験したことのない外部要因にも立ち向かって、トランプ政権との違いを際立たせたい。この「中間層のための外交政策の見直し」という、一見ちぐはぐに見える政策パッケージは、多正面作戦を強いられた政権のいわば「苦肉の策」なのかもしれない。

いずれにしても、バイデン政権は時間に追われている。来年の米中間選挙において、復権を狙うトランプ氏と共和党に対し、この政策パッケージが切り札になるだろうか。そうならなければ、現在バイデン与党(民主党)が辛うじて維持している上下両院における多数が崩れ、バイデン政権は一気に「レイムダック」に転落する。

ところで、菅首相とバイデン氏の首脳会談の内容はどのようなものだったのだろうか。その中身の詳細は追々明らかになってくると思われるが、それとともに、両政府の対応能力、特にスピードの違いが目立ってくるものと予想される。(茨城キリスト教大学名誉教授)