【コラム・中尾隆友】20世紀で最も重要な資源は石油だったが、21世紀ではデータが石油に取って代わるといわれている。人工知能(AI)がビッグデータを分析して、価値ある情報を抽出する仕組みが経済活動の主流となるのだ。

経済・社会のデジタル化が進み、データの価値が各々の国々の競争力を左右する時代では、AIを動かすための半導体の需要が爆発的に増えていくのが間違いない。それと並行して、半導体の絶え間ない性能向上が求められていくだろう。

世界の半導体産業では現在、台湾のTSMCとオランダのASMLが飛び抜けた技術力を持つ。残念ながら、日本でも米国でも両社の技術力に肉薄できる企業は存在しない。半導体企業の関係者によれば、日本企業が両社に技術的に追いつくことは不可能ということだ。

日本の半導体産業を強化するためには、国が潤沢な補助金を支給できる制度をつくらなければならない。米国では今年1月に半導体メーカーを強化する法律が制定され、TSMCがアリゾナ州につくる工場建設に30億ドルを補助することが決まっているのだ。

国・県・市と「ウィンウィン」の関係に

半導体産業を強化するという議論もない、日本の対応は遅すぎる。そのような状況下で、世界最大手のTSMCがつくば市に日本初となる研究開発拠点を設けるという意味は大きい。茨城県とつくば市は国と協力して、早急にTSMCとの向き合い方を考える必要があるだろう。

たとえば、TSMCの研究拠点を中心にして、日本の半導体企業をつくば市周辺に誘致するプランは有力な選択肢だ。2016年の米インテルをはじめ、大企業のつくば市からの撤退が相次いでいたが、TSMCの研究拠点設立は巻き返しを図る千載一遇のチャンスとなるはずだ。

TSMCが研究拠点をつくば市に選んだのは、日本の技術研究の底力に期待している面があるからだ。日本の研究機関や企業がTSMCの求める技術開発を助ける一方で、TSMCが日本企業に最先端技術を一部でも供与できれば、お互いにもたらされる恩恵は大きい。

今こそ、国・県・市の3者が緊密に議論を重ねて、TSMCと「ウィンウィン」の関係に発展するような方策を考えてもらいたいところだ。(経営アドバイザー)