【コラム・塚本一也】2019年の台風19号によって、茨城県は県北を中心に大きな被害を受けました。特に水郡線の第6久慈川橋梁(きょうりょう)は橋脚ごと根こそぎ流出し、台風の威力のすさまじさをまざまざと見せつけました。JR東日本の尽力により、その鉄橋も復旧し、3月27日に全線開通となる見込みです。今回は久しぶりに水郡線に乗車し、開通前の袋田の工事現場を見学してきました。

1月29日午後、水戸駅から上菅谷(かみすがや)駅まで乗車しました。水郡線は平成初期に「合築化」または「コンパクト化」という、JR東日本の施策のもとに積極的に各駅を建て替えました。中でも、このコラム(昨年8月7日掲載)でも取り上げた磐城塙(いわきはなわ)駅は、駅舎としては日本で初めてブルネル賞を受賞しました。

その後、全国のJRでローカル線駅舎の建て替えが始まりましたが、水郡線の個性あふれる各駅はそのお手本となったように思います。

水戸駅の懐かしい水郡ホームに降り立って、水郡線に乗り込みました。まず驚いたのが、車両の内装が非常にきれいであることです。このところ、本コラムの取材のために、県内のローカル線を体験乗車しましたが、水郡線の内装は首都圏の通勤列車と比べても遜色(そんしょく)がないくらいに洗練されていました。

さらに、その走りも快適で、気動車とは思えぬ乗り心地です。金曜午後ということで学生も多く乗っており、茨城県北の公共交通としての重要性を改めて認識しました。

20億円かけ第6久慈川橋梁を復旧

第6久慈川橋梁の視察は2月17日に行ってきました。橋梁は桁も接続され、鉄道設備の整備が終盤を迎えているところでした。予定していた工期を3カ月も短縮して工事を完了させたのは、本体に技術スタッフを抱えるJRの強みが発揮されたものと思います。

工事が進む第6久慈川橋梁

特筆すべきは、約20億円の復旧費用をJRが自己資金で全て負担したということでしょう。私は正直言って、久慈川の橋梁が流されたというニュースを聞いたときに、復旧は難しいだろうと思いました。100円を稼ぐのに最大で180円も費用がかかる区間を持つローカル線を、JRが積極的に設備投資するとは思えなかったからです。

自治体との協議を繰り返し、得意の寝技に持ち込んで、BRT(専用道を走るバス)などのバス輸送が落としどころではないかと予想していました。しかし、JRは全額自己資金で、赤字路線である水郡線を全線復旧させたのです。

災害の規模に違いはあるものの、同じように橋梁が流出した只見(ただみ)線(福島県会津若松市―新潟県魚沼市)が10年かかっても復旧できていないことを思うと、水郡線は非常に恵まれています。地域を思うJRの懐の深さを改めて実感しました。水郡線に少しでも多くの人が乗車して、JRの経営に寄与することが恩返しになるでしょう。(一級建築士)