【コラム・相澤冬樹】行方市(鈴木周也市長)とモリサワ(本社・大阪市、森澤彰彦社長)が3日、「連携協力に関する包括協定」を締結したとのプレスリリースが届いた。行方(なめがた)は近隣のまちだが、NEWSつくばのカバーするエリアではない。でも地方自治体がなぜにモリサワ? とは、活字メディアに長く携わってきたものには興味あるところだ。

モリサワが扱うのは「フォント」。昔でいえば活字メーカーで、NEWSつくばの前身である常陽新聞も写植文字にモリサワを使っていた。しかし、行方に事業所や営業所があるとは聞いたことがない。

プレスリリースを読むと、「連携協力に関する包括協定」は地方創生とSDGs推進を目指すとある。同社による連携協定は関東の自治体では初めての事例と紹介している。

行方市は、総合戦略書に「情報発信で日本一プロジェクト」を掲げ、各種の課題に取り組んでいる。このなかで、モリサワのUD(ユニバーサルデザイン)フォントおよびMCCatalog+(多言語ユニバーサル情報配信ツール)の活用を図ってきたのだそう。これまでに職員研修を実施し、情報のユニバーサルデザイン化の浸透を図るなどの協力体制を開始しており、今後この動きを加速化するべく、協定の締結に至った。

UDフォントは筆者のパソコンにも教科書体が入っているが、UDが「ユニバーサルデザイン」とはついぞ知らなかった。より多くの人に、文字の形が分かりやすく、読み間違えにくく、文章が読みやすい―を目指して開発されたフォントということだ。

社会人を対象とした検証実験が昨年10月、同市も参加して行われ、UDフォントは特に40歳以上で読みの速度が約3.3%上がり、誤認を約5.3%回避できるという結果も得られた。

誰一人取り残さない情報発信

で、これがどう地方創生とSDGs推進に結びついていくのか? その要となるのが、MCCatalog+で、同市では2017年から利用している。広報紙、観光ガイド、地域情報誌など、あらゆる紙媒体をデジタル化し、スマートフォンやタブレット端末に手軽に配信できるクラウドサービス。インバウンド対応の多言語情報発信ツールでもあり、日本語・英語・中国語簡体字・中国語繁体字・韓国語・タイ語の7言語への自動翻訳ができ、多言語対応の音声読み上げ機能もついている。モリサワの仕事は「フォント」にとどまらないというわけだ。

配信した情報は、専用ビューア「Catalog Pocket(カタポケ)」で見ることができる。情報の電子化で環境に配慮する一方、外国人住民、文字読みに困難さを抱える人に向けた情報を整理し、配信量を増やし情報格差の軽減を図る狙いという。市は教育現場での利用拡大も進めている。

今回の協定について鈴木市長は「特に、情報発信分野で、一層、戦略的に推進することができるものと確信しています。『誰一人取り残さない情報発信』をキーワードとして、あらゆる協力体制を築くことにより、新たな地域活力の創出や行政サービスの向上が見込めるとともに、職員の働き方改革等にも繋がるものと考えています」とのコメントを出した。

ユニバーサルデザインやSDGsを取り上げた地域づくりは各地でさかんになっているが、入り口がフォントというのはユニークだ。行方バーガーとか、SNS「なめがた日和」とか、霞ケ浦の対岸にいても、その情報発信はいろいろ聞こえてくる。知恵者がいるに違いない。(ブロガー)