【コラム・川上美智子】漫画、アニメ、映画で超人気作となった「鬼滅の刃」で、鬼が一大ブームになっています。保育園児にとって鬼は恐ろしい存在で、実在すると信じているようです。我が家の2歳半の孫は、イヤイヤ期の真っ只中。親の言うことは一切聞かず、コントロールの切り札は唯一「鬼が来る」です。

よい躾(しつけ)とは思いませんが、子育て家庭では昔から語り継がれてきた手法なのではないかと変に納得しています。子どもたちの多くは、桃太郎の昔話で初めて鬼に出会い、鬼は悪もの、怖いものというイメージをもつようです。

鬼のルーツは中国の「隠(おぬ)」、「陰(おん)」で、姿が見えない妖怪と考えられてきました。「鬼(キ)」という漢字は死体を表す象形文字だそうで、人は死んだら鬼になり、異界(鬼籍)に入ると考えられてきました。日本最古の鬼の記述は『日本書紀』巻第十九で、「亦言鬼魅不敢近之」と、鬼魅(おに)らしきものが佐渡に流れ着いたと記されています。

人の力を超越した恐ろしい出来事、洪水や雷、地震などの自然災害も鬼の仕業と説明されてきました。一方、ネパールのラケーやインドネシアのバリ島で出会ったバロンなどは、鬼の形相をしていますが、守り神として扱われています。また、日本の家屋でも、古く奈良時代から鬼瓦が魔除け・厄除け(雨水の浸入を防ぐ効果もあり)として使われてきました。

インドを発祥とし、中国仏教に取り入れられた風神、雷神も鬼の顔をもちますが、こちらも五穀豊穣のよい神様です。このように、鬼には悪い鬼、よい鬼、神としてあがめられる鬼など、いろいろなタイプがあり、日本の民間伝承として村や家にしっかり入り込んでいます。その流れを、今、私たちが子どもたちに鬼文化として伝えています。

コロナ終息を祈り、心を込めて豆まき

ところで、私が勤務する保育園の地名は、つくば市鬼ヶ窪で、何か鬼に縁があるようです。この地名の由来は分かりませんが、鬼が使われている地名を調べると、鬼伝説があったり、鬼が住んでいそうな災害の多いところが多いようです。近くには谷田川が流れているので、水害があった窪地であったからかもしれません。

鬼怒川には「鬼」の字が使われていますが、鬼が怒ったように暴れる川で、たびたび水害を起こすので,明治9(1876)年に衣川(絹川)から鬼怒川に改名されたと言われています。

保育園では2月2日の節分の準備が始まっています。例年より1日早い節分は124年ぶりだそうですが、子どもたちは豆(魔の目に豆をぶつけて魔を滅する)をまいて、悪い鬼を追い出し、厄を落として無病息災を祈る節分を楽しみにしています。

昔から伝染病が流行るのも悪鬼の仕業とされてきましたので、今年は新型コロナウイルス感染症の終息を祈り、心を込めて子どもたちと豆まきをしたいと思います。(みらいのもり保育園園長、茨城キリスト教大学名誉教授)