【コラム・古家晴美】今から20年くらい前のことになるだろうか。コンビニが節分めがけて恵方巻きの全国販売に乗り出した。その年の恵方(歳神が訪れる方角)に向き、家族がそろって、切っていない太巻きずしを丸ごと1本無言で食べると、福を招く、願い事がかなうという触れ込みだ。節分に海苔巻きを食べることは、戦前から、近畿地方の海苔業者、すし屋、あるいは一部の家庭でも見受けられたが、現在は全国的な行事食となっている。

「節分」は立春(2021年は2月3日)の前日に当たる。二十四節気(にじゅうしせっき)では、立春から春に入る(春とは名ばかりで実際は寒のピークであるが…)。つまり、命が芽吹く季節の始まりであることから、節分を「トシコシ」と呼ぶところは茨城県南でも多い(牛久市、土浦市、つくば市など)。そして、節分に年越しそばを食べる。また、風呂の水にも年を取らせないようにと、風呂の水を抜いてから節分の豆まきをする(牛久市、阿見町、つくば市など)。

大声をあげながら豆まきをされた思い出をお持ちの方もいらっしゃるだろう。豆まきには、災いを象徴する鬼を追い払うという意味がある。また、イワシの頭をあぶって豆がらに刺して柊(ヒイラギ)を添え、戸口やナガヤ(作業小屋)、便所、勝手口、カマバに挿しておくこともある。これもイワシの臭気と柊のトゲが同様に魔除(よ)けとなるからだ(牛久市、土浦市、阿見町、つくば市など)。

このほかに、神社のお札を玄関に貼り、トマモリ(戸守り)とし(牛久市、阿見町)、厄年の人が節分に厄除け神に参拝する、わら人形に餅を背負わせ三叉路(さんさろ)に立てるなど、厄払いとの関わりも深い(阿見町、つくば市)。

季節の変わり目に跋扈(ばっこ)する悪鬼から、豆、魚臭さ、柊のとげ、お札などを用いて、自らの身を守り、ついでに自分にかかった厄まで追い払ってしまおう、という算段だ。

豆まきの結びは「福でもってぶっとめろ」

近年の恵方巻研究によれば、商品名に「幸福・招福・七福・開運」などのことほぎの言葉が目立ち、節分行事が商業利用の場において、除災から招福の行事へと変貌を遂げたのではないか、との指摘もある。確かに様々な装置を使用し、除災しようとしてきたことは事実だ。

しかし、豆まきに使う「福豆」は大豆を煎ってから神棚にあげておいたものを夜に使用する。また、まいた後の豆は、「福茶」として茶や梅干しと共に飲む(行方市、牛久市、かすみがうら市、つくば市)。「鬼は外、福は内」を繰り返した後は、「福でもってふ(ぶ)っとめろ<止めろの意>」で結ぶこともある(牛久市、 土浦市、阿見町、つくば市)。

除災が表看板となっている「節分」だが、招福にあやかろうという人々の細やかな願いを感じるのは、筆者だけであろうか。(筑波学院大学教授)