《くずかごの唄》5 パロディ百人一首 調剤薬局風景


【コラム・奥井登美子】私の両親とも、お正月は小倉百人一首で明け暮れていました。

花の色は移りにけりないたづらに わが身世にふる眺めせしまに  小野小町

「鼻の色は移りにけりなイタ面(ツラ)に 肌はシワクチャ眺めせしまに」

昔美人で評判だった人も年齢は平等にやってくる。肌の衰えは隠せない。あ、あ…。

これやこのゆくもかえるも別れては 知るも知らぬも逢坂の関  蝉丸

「これやこの行くもかえるも病院へ 知るも知らぬも薬の名前」

病院を渡りあるいている人。「お薬は何をお飲みでしたか」と聞いても「血圧は白い玉、糖尿は赤い玉」。薬の名前を覚えくれない人が多い。そういう人こそお薬手帳が必要なのだ。

このたびは幣もとりあえず手向山 紅葉の錦神のまにまに  管家

「このたびは薬もとりあえず抗がん剤 治るか否か神のまにまに」

抗がん剤が効くかきかないか。この治療は今も昔も神のまにまに…なのだ

月みれば千千に物こそ悲しけれ わが身ひとつの秋にはあらねど  大江千里

「薬みれば千千に物こそ悲しけれ わが身ひとつの病にはあらねど」

こんなにたくさんの薬飲んで大丈夫かな、心配しながらお渡しする人もいる。数が多いと副作用の検索がほつれた糸のようにこんがらがってしまって、説明ができなくなる。

うかりける人を初瀬の山おろし はげしかれとは祈らぬものを  源頼朝

「うっかりと、頭髪薬を間違えて ハゲになれとは祈らぬものを」

水虫の薬を、つい、うっかり、頭髪に塗ってしまった人。相談されても困ってしまう。ハゲにならないように祈るほかない。

夜をこめて鳥のそら音ははかるともよに逢坂の関はゆるさじ  清少納言

「夜をこめて鳥のそら音ははかるとも インフルエンザの咳は許さじ」

病院の待合室で咳をしている人のそばには行かないほうがいいです。

筑波ねの峰より落つる男女の川 恋ぞつもりて淵となりぬる  陽成院

「筑波ねの峰より落つる男女の川 鯉ぞつもりて甘露煮となる」

土浦の自然を守る会で、この間、霞ヶ浦の佃煮屋さんへ工場見学に行きました。(薬剤師・随筆家)