【コラム・山口絹記】最近、新しいアコースティックギターを購入した。もともとアコースティックギターを1本、クラシックギターを2本、エレキギターを1本持っていたのだが、現役で使っていたのはアコースティックギター、クラシックギター1本ずつだ。そのうちのアコースティックギターの調弦がどれだけ合わせても狂うようになってしまったのが、今回の購入動機である。

ギターというのは、ざっくり言うと6本の弦が張ってある楽器だ(7弦ギターとか、12弦ギターという楽器もあるが)。

日本でよく耳にするバンドや弾き語りなどでは、太い弦からEADGBE(ミラレソシミ)の音に調弦するレギュラーチューニングが使われていることが多いが、アイリッシュギター(アイルランドの伝統音楽)などでは、6弦と1弦をD(レ)の音に下げたチューニングを施すこともある。細かいおはなしを始めると終わらなくなってしまうので、今回はこのあたりにしよう。

アコースティックギター(クラシックギターも含む)というのは、木材で作られている。そのため、どれだけ高級なギターを使っていても、高温多湿な環境や、極端に乾燥した場所に放置していると、ギターが変形して音がおかしくなってしまったり、最悪壊れてしまうことがある。私のギターの場合は、ボディが膨らんでしまってチューニングが合わなくなってしまったのだ。

キラキラした音、やわらかい音、…

楽器屋に何百本と並ぶギターから自分の気に入ったギターを探すのは大変な作業である。まったくの初心者であれば、入門セットが用意されていたり、あるいは憧れのメーカーで選んだりもできるが、なまじ10年以上弾いているとそうもいかない。好きな音色、というのがあるのである。

大抵、楽器屋の店員さんとの会話は混沌(こんとん)を極めたものとなる。「キラキラした音が欲しい」とか、「やわらかい音が欲しい」とか。そもそも音色、音質とはなんだろうか。触れもしない音に、かたいとかやわらかいなどという表現をなぜ使うのだろう。

しかし、使ってしまうのである。もともと大学で4年間クラシックギターサークルに所属していた私も、「そこはもっとかたい音出してよ」とか、「もっとまろやかな音出せないの?」などいうやりとりを幾度となくしてきた。もう、そう表現するしかないのである。

実際、クラシックの楽譜にも「愛らしく」とか「軽く」とか「神秘的に」などといった発想標語が、平然と使用されている。クラシックの世界ですらこれなのだから、このあたりが人のことばの限界なのかもしれない。

とにかく、私は幸運にも恋をした。ジャラーンと鳴らした瞬間にキミだ、というギターに巡り会えたのである。そこにはことばを超越したものがあるのだ。私が音楽が好きなのは、そこにことばで表現できない何かがあるからなのかもしれない。(言語研究者)