【コラム・川上美智子】リンゴの生産量のランキングをみると、青森、長野、岩手、山形、福島などの市町村が上位を占め、100位以内に茨城の市町村は入っていません。平均気温10度前後の冷涼な気候を好むリンゴにとり、茨城は南限に位置するので、商業ベースに乗りにくいのであろうと思われます。

茨城では、大子町がリンゴの主産地として有名ですが、日立市、水戸市、石岡市、城里町などでもおいしいリンゴが生産され、観光リンゴ園では手軽にリンゴ狩を楽しむことができます。

リンゴの品種改良が世界一の日本では、本当に多くの品種が栽培されていますが、現在の品種の主流は、「ふじ」「つがる」「王林(おうりん)」「ジョナゴールド」です。子どものころに食べた「国光(こっこう)」や「紅玉(こうぎょく)」は、料理に使いたいと思ってもなかなか手に入れることができません。

先日、蜜が多いことで「幻のりんご」として人気上昇中の「高徳(こうとく)」を食する機会がありました。大子ではこのリンゴを木で完熟させ「奥久慈りんご」として販売しています。実は固めですが、リンゴ本来の甘い香りをもち、甘味も強く感じられました。

この甘い蜜の正体は、ソルビトールという糖アルコールです。リンゴは、葉で光合成の作用で作られたでんぷんをソルビトールに転換して、果実に転流(運ぶ)させる性質があります。運ばれたソルビトールは、果実の中でブドウ糖や果糖に変えられ細胞内に蓄積し、甘さを増して行きます。

完熟のころには、ブドウ糖や果糖が飽和状態になり、芯の部分にソルビトールが蜜となって残ります。そのため、葉がたくさんついた木ほど、蜜がよく入ると言われています。

茨城のリンゴは隠れたブランド品

このソルビトールは、リンゴの機能性成分の一つです。ソルビトールのような糖アルコールには吸熱作用があるので、口に入れたときに冷涼感が感じられます。また、ブドウ糖などの糖分に比べ、腸内で吸収されにくいので血糖値を上げにくく、糖尿病予防効果があります。さらに、リンゴの果実や果皮に含まれる水溶性食物繊維のペクチンは、腸内の善玉菌を増やし、血清コレステロールを抑制します。

また、褐変(かっぺん)の要因物質であるカテコールやエピカテキンなどのポリフェノールは、強い抗酸化活性をもち、がん予防や老化防止が期待されます。英ウエールズのことわざ「An apple a day keeps the doctor away(1日1個のリンゴは医者を遠ざける)」に合点です。

大学の研究室で、大子産の完熟ふじと青森産のふじの香りを比較分析したことがありました。

大子産のふじは酢酸ブチル(butyl acetate)や酢酸イソバレル(2-methylbutyl acetate、3-methylbutyl acetate)、酢酸ヘキシル(hexyl acetate)などの甘いリンゴ臭をもつエステル類とフレッシュな青臭もつ(E)-2-hexenyl acetateや青葉アルデヒド((E)-2-hexenal)が数倍含まれていることがわかりました。茨城のリンゴは、実は隠れたブランド品なのです。(茨城キリスト教大学名誉教授)

※高徳:青森で1985年に品種登録されたリンゴ。青森では「こみつ」と命名し販売