【コラム・高橋恵一】冬季のインフルエンザ流行と重なると恐れられていた第3波の新型コロナ感染拡大の様相があらわになって来た。欧米や東アジアでの再感染拡大と軌を一にしており、さらに本格的な対策が必要である。しかし驚くべきことに、今日に至っても我が国の検査体制、医療体制の不足が報告され、従事者は極限に達している。

新型コロナ感染の情報を察知したのが1月。一斉休校や緊急事態宣言などを経ながら、5月中旬になると、医学的にも、論理的にも、有効な対策の方向も見いだせず、右往左往しているうちに、運よく落ち着いた。当然、次の感染拡大に向けて、医療体制、感染防止対策の万全を期すことと、感染拡大によって引き起こされた収入減と雇用崩壊の救済策が最重点策であった。

一方、経済対策としてGoToキャンペーンを推進し、観光や飲食業界へのテコ入れ、人々の消費マインドの振興のための補助金の給付、ポイント還元などの実質的値引き支援などが実施されているが、何よりも、コロナ感染の恐怖と不自由を抱えたままで経済活動が回復するとは思えない。

もともと、我が国の経済不振は、コロナショックで始まったわけではない。1990年代のバブル崩壊後、不況が繰り返され、失われた20年を取り返すとしてアベノミクスを推進したが、効果が無く、失われた30年へまい進している。個人消費が回復しないのだ。税の優遇策はなどで大企業の業績を上げれば、トリクルダウンして広く個人所得も増大するなどというのは、妄想だということが明らかになった。むしろ、個人所得の格差は拡大するばかりだ。

医療体制を立て直し国民生活の安定を図れ

多くの分野でIT化デジタル化が進み、業務の効率化が図られたが、その成果は、労働時間の短縮、休暇の拡大など労働環境の改善に向けず、雇用人員の削減につなげてしまった。公務員の世界でも、アウトソーシングの拡大により正規職員を削減した。働き方改革などの掛け声の下で、これらの流れが非正規職員の拡大、不安定な雇用の拡大になり、この点でも低所得層が増えてしまった。

また、高齢化社会の進展により増額が当然なのに、社会保障負担の抑制を図り、医療介護費の増額を抑えた結果、その分野に働く人たちの賃金を低水準にしてしまい、慢性的な人手不足が続いている。

個人消費を改善するには、低所得層の所得、賃金を上げることだ。医療も介護も政府が従事者の給与額をコントロールできる職種であり、年金や生活保護費、雇用保険の拡充なども政府が決定できるのだ。ベーシックインカムも検討する。もともと足りない所得層にカネが回れば、消費にまわる率が高く、経済の好循環が実現するのだ。

コロナ感染の中で、エッセンシャルワーカーの頑張りを称賛したりしても、賃金などの改善が無ければ、長続きしない。長期的な格差社会の是正を目標に置きながら、医療体制を立て直し、国民の生活の安定を図ることが、新型コロナ感染の現状で選択すべき道であろう。(地図好きの土浦人)