【コラム・浅井和幸】とても美人なAさん。無口で、あまり喜怒哀楽を表に出さない人だった。人とコミュニケーションを多くとる人でなかったので、あまりトラブルは無かった。

けれど、周りからの評価は、「冷たい」とか「お高くとまっている」だった。Aさん本人も、自分が周りから良く思われていないのは感じていた。出来るだけ嫌なことも顔に出さないように努めているのに、どうすればよいか分からなかった。

私が接している限りでは、Aさんは少しだけコミュニケーションが苦手なのと、人見知りをする人という印象である。慣れた人とだとよく笑い、人の言葉をよく聞く人であった。

さて、人に好かれるには感情的になってはいけないという教えを受けた人は多いことだろう。怒らずに、いつも笑顔で人に接することが大切だ、むしろ感情は押し殺すものだ、と。

女性は人前ではニコニコしていることが大切で、それが出来ないから自分は人から好かれない。ニコニコしようと思ってもぎこちなくなるから、余計に人と話が出来ずに距離が出来てしまう。Aさんは、そのように考えていた。

大切なのはその表現方法

実は、感情を表に出すことは悪いことばかりではない。喜びばかりでなく、怒りも悲しみも嫉妬もすべて大切な感情で、役割があることは間違いない。

大切なのは、その表現方法である。相手が受け取れるだけの表現である必要がある。暴力が怖いと感じる人に、怒りを暴力的に伝えることは恐怖を与えることであるが、自分が怒っていることをちょっとした表情や言葉で落ち着いて伝えることは出来る。

人にはミラーニューロンという他人の言動などから相手の気持ちを読み取るために役立つといわれている神経細胞がある。なんて、難しいことを言わなくとも、相手が無表情で怒っているのか喜んでいるのか分からないときは、得体が知れない、怖いと感じてしまうことはあるだろう。

相手の感情が推測できるとき、安心感にもつながる。相手が怒っているときは近寄らないようにするとか、喜んでいるときは何かものをおねだりしようかと画策できるとか、行動をとりやすいだろう。

感情を表現することは、普段表現しない人にとっては難しいことで、練習が必要になる。実際に感情表現をしたほうが人から好かれるという研究もある。感情を押し殺して無表情になり、波風を立てない代わりに周りから得体のしれないやつと思われる道と、感情をうまく表現して摩擦はあるけど人に好かれる道。そんな両極端なことは無いにせよ、どちらを選ぶかは自分自身で考えていくことである。(精神保健福祉士)