【コラム・瀧田薫】長男ブーは藁(わら)の家、次男のフーは木の家、末っ子のウーは煉瓦(れんが)の家をそれぞれ建てたそうだ。ある日、オオカミがやってきて、3匹は家に逃げ込んだが、頑丈な家に隠れたウーだけが助かった。

このお話、原作はイギリスの民間伝承らしいが、いろいろ変更が加えられ世界中に広まったようだ。賢いウーだけが助かる結末はどこでも同じだが、家の材料は国によって違う。まあ、そうでしょうね。地震の多い所で煉瓦の家がベストとも思えませんからね。

ところで、もし今の日本にウーがいたとしたら、どんな家を建てるでしょうか。賢いウーですから、地震や台風に備えて、基礎や構造のしっかりした家にするはずです。でも、お金持ちではないし、子どもの教育費も考えて、新築は諦めるかもしれません。

日本には空き屋が846万戸(2018年総務省統計)もあります。「質の良い中古の木造住宅」を探し出すことは可能でしょう。ウーであれば、それを上手にリフォームして、新築よりはるかに安いコストで、楽しく、豊かな暮らしを手に入れるのではないでしょうか。

住宅投資累計を下回る住宅資産

ところで、2013(平成25)年、国土交通省の肝いりで、「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会」が立ち上げられ、同年、研究会提言が発表されました。提言の中身は現状認識と対策の二つに分かれています。

1.英米では、住宅投資の累計額を上回るストック(住宅資産)が形成されているのに、日本では住宅投資累計額より500兆円程度下回るストックしか形成されていない。

2.木造住宅は約20年で価値ゼロという「常識」が中古住宅市場にも担保評価にも「共有」されており、ストック形成を妨げている。建物評価の適正化を図る必要がある。

さて、住宅ストックが貧しい理由は単に建物評価の不適切さだけではありません。現状、空き屋が800万戸以上もあるのに、2015年以降、毎年90万戸以上(2018年国交省統計)もの新築住宅が建てられており、これが既存住宅の資産価値を下落させています。欧米では住宅数の総量規制をしていますが、日本政府は、新築をむしろ助長しています。

住宅建設の経済効果は、住宅投資額に対する生産誘発額が約2倍あるそうですから、成長経済志向の政府からすれば、GDP(国内総生産)、雇用、税収に悪影響を及ぼす住宅建設の抑制などもっての外でしょう。

一方、提言は、明言を避けてはいますが、政府の経済政策には批判的です。つまり、人口が減少し経済成熟が進行している事実を見据えて、ストック重視(資産による豊かさ志向)の経済への転換を示唆しています。これを一種の社会改革提言と読めないこともありません。賢いウーに、日本の未来はどうなるか、聞いてみたくなりますね。(茨城キリスト教大学名誉教授)