【コラム・高橋恵一】アベノミクスによる景気の好循環や女性活躍社会など掛け声倒れの長期政権が終了し、新政権がスタートした。政権への諸疑問に対する納得いく説明もないまま。

新首相は、国民に「自助、共助、公助、絆」を呼びかけ、コロナ対策と景気回復を重要目標に、戦略目標としてデジタル化と規制改革を掲げ、具体的施策として、少子化対策のための不妊治療補助と業務の効率化のための「はんこ」廃止を打ち出した。

前首相は、少子高齢化を「国難」と言い放ったが、少子化も高齢化も人類が生活水準の高度化とともに迎える現象であって、長寿をいかに前向きに受け止めて社会経済の仕組みを構築していくか、少子社会で安心して産み育てる環境を整えるかであろう。医療福祉、教育、経済など、こちらも多面的な対策が求められている。不妊治療への保険適用に続いて、その数百倍以上の予算規模の少子高齢化対策は打ち出されるのだろうか。

「はんこ」の役割は、本人の意思確認、案件への同意・承認、権威の証明などであろう。特に、同意承認は、組織の意思決定の過程で膨大な作業になっている。しかし、本来、多数の承認が必要なのだろうか? 私の経験でも、稟議(りんぎ)書に10人以上の印が押されて決済を求められた経験があるが、押印者の1人に、案件の説明と意見を聴くと、内容を理解していない場合が多かった。

意思決定に責任を持って対応する人間だけに絞ればよいだけだ。「はんこ」を止める以前に、はんこを押す人数を減らすことが先だ。最前線、現場の実務者に、権限と責任を持たせることが真の改革であろう。

IT化で利益を得るのは誰か?

デジタル化の推進が新政権の最重点とされ、今般の新型コロナ感染対策でも、デジタル化の遅れが悪影響したといわれている。国際的にも遅れを挽回するため、デジタル庁を新設して推進するのだという。具体的には、マイナンバーカード登録を、2022年までには100%にするとか、キャッシュレス化も100%を目指すのだろう。

ところで、私の手伝っている「いのちの電話」(自殺予防のため24時間体制の電話相談)では、SNSでの相談事業も始めるが、SNS管理事業者に、登録料30万円と、月額10万円の管理料を払うことになった。

相談員は無償のボランティア、事務局は最低賃金ぎりぎりの非常勤。収入源は、有志の企業や個人の寄付金という事業である。また、小さな駅前の床屋さんは、老婦人1人で営業しているが、カード会社への登録料とキャシュレス決済の手数料が5%かかるので、お客さんの強い要請がないときは、現金決済にしてもらっているという。

IT化、デジタル化、キャシュレス化の進展で、膨大な利益を得られるのは誰なのか? マイナンバーカード登録が100%になったら、システム管理会社は10%登録時の10倍以上の収入増になるのだろう。政府肝いりの目玉政策は、御用業者の稼ぎと連動することになる。

コロナ対策と言いながら、持続化給付金やGOTOキャンペーンの事業請負業者の手数料など、コロナショックで困っている人の支援なのか、便乗業者への利益供与なのか、なんともいやらしい事態の展開である。(地図好きの土浦人)