【コラム・田口哲郎】

前略
はじめまして。みなさんは「ゆうみん」と聞いて何を思い浮かべますか? ポップスの女王ユーミンでしょうか? 今回お話したいのは「遊民」のことです。

字面から遊び人を連想されるかもしれませんが、ただの遊び人ではありません。遊民はまず街を歩き回ります。暇とお金がなければできません。金持ちという意味では遊び人ですね。でも、遊ぶと言っても飲み歩くわけではなく、日がな一日散歩をするのです。

ただ漫然とは歩きません。きょろきょろしつつ、興味を引いたものをじっと観察します。人々を、街を、自然を…。つまり、この世界のありとあらゆることを。遊民は散歩者でもあり、文明批評家でもあるのです。

私は今、2度目の大学生をしています。暇はありますが、金はないので、半遊民(貧遊民?)といったところでしょうか。

憧れの夏目漱石が学んだ東京大学に通っていますから、漱石の小説の登場人物たちのように「高等遊民」になってみたいですが、贅沢は言えません。劣等遊民でかまいません。その代わり、観察したことをお伝えしたいのです。

未曾有の社会変革の予感

アウトローとは言わないまでも、フツーの道をまっすぐ歩かずに、ウロウロ回り道してきたからこそ見えてくるものがあります。それが私のなけなしの財産かもしれません。

氷河期世代と言われた私の世代も四十路を過ぎました。バブル崩壊、平成大不況、IT革命、デフレ不況と、色々社会変化がありました。しかし! コロナ禍ほどの大変革がいまだかつてあったでしょうか? 高嶋政伸主演のドラマ「HOTEL」の名台詞(せりふ)を借りれば、「姉さん、事件です!」と、世界中に特大拡声器で叫びたいくらいです。

遊民(こう自称することをお許しください)にとって、死活問題が起こりました。コロナ禍で街から人が消えたのです。緊急事態宣言が出されている間、巣ごもりを強いられ、外出自粛を余儀なくされました。

遊民の唯一の目的である、目的無き散歩は不要・不急ですから、まずもって遊民が外出できない。仮に外に出られたとしても、人々が街にいません。人間が行き交ってこその街です。無人の街は、最初は珍しいかもしれませんが、すぐに飽きてしまうに決まっています。

ウィルスの拡大が収まれば、また元の社会が戻ってくると思っていました。が、そうではありませんでした。人間の移動はオンラインにとって代わり、街に人々は戻らず、歓楽街の灯は日ごとに小さくなっています。

6月18日の会見で安倍総理(当時)は、コロナ禍を機に国土の在り方を「集中から分散へ」「根本から変えていく」と述べました。「姉さん、事件です!」と、私はまたもや世界中いや全宇宙に叫びたくなりました。

なぜなら…。おっと、紙幅があまりありません。続きは次の便でお届けすることにいたしましょう。ごきげんよう。
草々(散歩好きの文明批評家)

  • 【たぐち・てつろう】慶應大学大学院文学研究科仏文学専攻修士課程修了。専門は19世紀パリの遊歩者について。その後、家庭教師、派遣社員などを経て、四十路過ぎで2度目の大学生。東京大学文学部在学中。興味・関心は、神秘主義、スピリチュアル、宗教、高等遊民、鉄道模型。茨城在住20年(現在は牛久市)。大阪・仙台育ち。